第三回では、前回の店頭オペレーション視点に続き、Hi&LoとEDLPといった2つのアプローチ手法における商品調達・サプライチェーン視点からの考察、並びに総括について論じていきたい。

■商品調達・サプライチェーン視点

【Hi&Lo型アプローチ】

Hi&Lo型アプローチにおいては、通常の販売価格を一時的に値下げし、特売価格とすることから、通常仕入原価と異なる特売原価での調達やリベート、アローワンスといった原価補填を行うケースが多くみられ、ファイナンス視点での商品勘定コントロールに複雑性を増すことに繋がる。

特にバイイング部門においては、特売商品の選定・条件交渉からサプライチェーンを含めた供給手配、販促コミュニケーション等、取引先をはじめ多岐にわたる社内関連部門との調整業務も必要となり、前述の商品勘定コントロールを含め、煩雑な業務をとり行うこととなる。

過度なHi-Lo依存型オペレーションは、バイイング部門のコスト効率改善・生産性向上を阻害する要因になりうると同時に本来、基本となるべきカテゴリーマネジメント戦略に基づく品揃、モジュラー作成が疎かになりかねないリスクも内包している。

サプライチェーンにおいては、特売計画に基づき店舗への納品量を大幅に増加することとなり、状況によっては通常納品便に加え、増便・特車手配が必要となる。

また商品量増加に応じて、物流センター内での作業人時も確保する必要が生じることから、コストアップ要因に繋がることは否めない。

特に、特売残品が店舗で捌ききれない状況が生じた場合、他店への品振による処分や物流センターへの一時格納といった手法を選択する企業も多々見られるが、さらに輸送費やセンター効率悪化等、間接的なコスト負荷を高める点にも留意する必要がある。

【EDLP型アプローチ】

EDLP型アプローチにおいては、前述のとおり、日々の顧客の購買行動、マーケット動向を理解し、カテゴリーマネジメント戦略に基づく品揃・モジュラー展開、適切な価格設定、並びに商品補充・供給を適正に実施することが基本となる。

バイイング部門においては、「いかに顧客にとって魅力的な品揃・定番モジュラーを構築するか」が基本となることから、それぞれの商品カテゴリーの役割設定に基づき、(1)戦略的な視点から品揃政策策定、(2)モジュラーへの落とし込み、(3)実際の店舗ロールアウト後に効果検証、(4)さらに必要に応じて修正を実施、といった一連のサイクルを回すことで、品揃に対する顧客支持・信頼度をより高めていくことが重要となる。

加えて、カテゴリー隣接性、店内回遊性を鑑み、顧客に快適なショッピング体験を提供する上で、売場全体にどう配置していくかという点にも留意する必要がある。

また価格においても前述のKVI(Known Value Item)をはじめ、それぞれの品揃アイテムの位置付けに応じて、マーケットやターゲット競合の価格水準を考慮した上で、丁寧に設定する必要がある。

特に個々のアイテムレベルでマーケットや競合と比べ、安い高いという視点だけではなく、顧客が日常のショッピングで購入する購買頻度の高いアイテムを中心としたバスケット・プライスの視点に留意することが重要となる。

サプライチェーンにおいては、店舗への商品補充・供給を適正にしつつ、いかにコスト効率化を図るかが重要なポイントとなる。

商品補充、供給については、店別にヒストリカルデータをベースとして需要予測を行い、安全在庫分を考慮した上で自動補充を実施することで店舗での発注人時削減、在庫適正化による生産性向上を図る。

同様にセンター内作業人時についてもIT活用を含め平準化を進めることで、人時生産性、作業効率改善に繋げていく。

またバックホールの活用や積載効率改善、フルトラックロード導入等、調達コスト全体を引き下げる手法を取り入れることも効果的である。

■総括

Hi&Lo型アプローチについては、短期的な集客、売上拡大効果は高く、事前準備に要する期間も比較的短いため、顧客の需要喚起を促す上で、適切な商品を、魅力ある価格で、タイムリーに実施することは効果的であると考える。

一方で、店舗作業をはじめ商品調達、サプライチェーンに至るまで、通常オペレーション時に増して、コスト負荷が大きく、潜在的なリスクも内包していることから、出口戦略を含めファイナンス視点での収支バランスを十分に考慮する必要がある。

EDLP型アプローチについては、「顧客が欲しい商品をいつでも魅力ある低価格で提供する」という基本概念を顧客に体感してもらい、信頼感、ロイヤリティを醸成していくことが必要となるため、時間をかけて「EDLP Journey」と呼ばれるような長い道のりを歩む必要がある。

また、顧客にとってより競争力のある価格を提示し、魅力的なEDLPプレイヤーと認知されるためには、EDLPを支えるためのEDLC(Everyday Low Cost)オペレーションを構築することが不可欠となるが、EDLP/EDLCの両輪を好循環で回し、成功に導くためには多くの時間と継続的な労力を要することとなる。

                                       (井本 幸一)

 

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