《 グルーポンの株式公開 》
 以前にこの余談でも触れたことがあるのですが、ネット販売で流行っている方法が「フラッシュマーケティング(FMKTG)」です。これは簡単に言えば、稼働率が低迷しているホテル客室や外食予約をサプライヤー側が格安価格でオファーし、その代わり「何時何分に何人以上申し込まなければ、なかったことに」というやり方でさばく方法です。

 ネットオークション(リバースオークション)にも似ていますし、共同購入にも似ています。後者では、既に存在するビジネスですが、廃盤になった本やCDを「何人以上の希望者がいれば再版する」というのに絡めたものもあります。

 ビジネスモデルとしては、立ち上げ時期に「この値段でこの内容ならばオトクだ!」という案件をサプライヤーから引き出してきて、売り切り、消費者からの評判がよければサプライヤー、FMKTG業者、消費者の三方一両得になりますので、まさにwin-winのビジネスモデルです。

 しかも広告をしなくても、今の時代、ブログやツイッター、フェイスブックでユーザーが勝手に「××のフラッシュマーケティングで出ている商品はイイ」と口コミしてくれますので、最初に「ゴロン!」とビジネスを回すことさえできれば、後はよほどのミスをしない限り、旨く回ります。

 そんな中、米国のフラッシュマーケティング大手の「グルーポン」が株式を公開することを発表しました。日本円で600億円の調達も同時に行うとのことです。元々、サプライヤーを探してくることさえできれば、IT投資などがそれほどかかるビジネスとも思えないので、これはネット販売に活路を見いだしたい消費関係企業にとっては興味津々の新規公開となりそうです。

《 フラッシュマーケティングと供給超過 》
 ただ…..と、へそ曲がりの佐々木としてはちょっと戸惑いも隠せないのです。というのも、このFMKTGが成り立つ仕組みというのは、ホテル客室にしても外食予約にしても低価格でも良いから捌いてしまいたい、稼働率を上げたいという「供給超過状態」にあることが前提だからです。

 もちろん、実世界の経済では需要と供給が綺麗にマッチすることはありませんので、そこにディスカウンターなどの「利益率裁定」を行うビジネスが出てくるのは当たり前のことと思います。しかし、「供給超過状態」を前提としたビジネスが成り立つことということは二つほどの疑問を僕の中に残します。一つは「定価」が「正価」でなくなる可能性が高いのではないかと言うこと、二つ目は稼働率上昇分で本当に損失を回避できるのか、ということです。

 前者は消費者の信頼にダメージを与える可能性があります。もしFMKTGがあまりにも当たるのであれば、ホテルや外食企業はそれ専用商品の開発に力を入れるでしょう。そしてそれは、ファクトリーアウトレットに出店したテナントが、「ファクトリーアウトレット用の商品を作る」という逆転現象に似ています。

 実際、極く私的な見方・偏見ではありますが、日本の「アウトレット」に対する消費者の目線は、米国の完璧なファクトリーアウトレットに比べて疑念的であるように感じています。そのあたりを心得て、「日本のアウトレットはあくまでも商業集積の一形態」と割り切ってアウトレットを展開している企業の業績が好調なのは読みが深いと思わざるを得ません。

 後者の「稼働率上昇で損失回避できるか」ということに関しても、極めて疑問です。これもまた喧嘩を売るような言い方になってしまうのですが、社内の効率化をしてらFMKTGをすれば極めて大きな効果が得られます。しかし、社内効率化をせず、とにかく「回せ回せ!、回せばなんとかなる!」的な発想だけでFMKTGを導入していては、やがて酷使された施設のメンテナンスもできなくなり、どこかで何かが崩れていくような予感を感じます。

 以前にフラッシュマーケティングをご紹介したとき、そこに参加し始めたあるサービス業者が「これは焼き畑農業なので、本気でつきあわないようにしている」という趣旨のことを決算説明会で仰ったことをご紹介しました。今回のグルーポン新規公開のニュースを聞いて、確かにサプライヤーの付加価値が形を代えてグルーポンの利益になっているのだと強く感じました(もちろん、こうした新しい試みを否定するものではありませんので、誤解なきよう)。

《 動産担保融資の背景 》
 さて、そんな中、先日、ある新しい金融用語を聞きました。ABL、です。調べると、「アセット・ベース・レンディング」の略で、日本語では「動産担保融資」だそうです。

 内容は極めて明瞭で「不動産担保融資」は不動産を担保にするお金を貸すこと、「動産担保融資」は機械設備、運搬自動車、棚卸資産などの企業が保有するものを担保にお金を貸すことだそうです。なーんだ、ですね。

 ところがこれが「なーんだ」では済まないのは、三つほど理解しにくい点があることです。

 一つは生産活動に欠かせないものを担保にしてお金を借りてしまったら、資金繰りが止まった瞬間に倒産してしまうことです。そもそも機械設備などを担保にすること自体、資金繰りに切迫してきたときに「とらされる」アクションですから、ちょっと怖いのではないかしらんという日本の考え方が頭を出します。

 二点目は棚卸資産の担保価値を誰がどのように評価するのかです。大和総研ホールディングスさんのコラムによれば(http://www.dir.co.jp/publicity/column/090929.html)、醤油とかおかきとか牛とか豚とかぬいぐるみとか諸々の棚卸資産が担保になっていると。これらを正当に評価するのは難しいから「専門の評価機関の活躍の場」が出てくるそうなのですが、ここがリーマン倒産を経験した佐々木としてはどうしてもひっかかる。

 サブプライムローンの価値は最高格付けのAAAでした。実際、当初は非常に安全な商品でしたし。しかし、最終的に無価値となって、多くの金融機関や住宅購入者が被害を受けたのは記憶に新しいところ。このAAAの格付けは「専門の評価機関」である格付け会社がつけたものなので、その意味ではABLに同じ事が起こらないのかという疑問が残ります。

 注意しなければならないのは、意図的に格付け会社がサブプライムローンの価値評価を間違えたわけではないことです。ただ、ちょっとばかり楽観的な見方をしたこと、具体的に言えば健全な住宅ローン(プライムローン)の貸し倒れ確率をサブプライムローンにも適用したことなどが、その後、大きな間違いを引き起こしました。

 そして最後の三点目の疑問は、このABL自体が「供給超過状態」にあることをバックグラウンドに造られた考え方ではないかと言うことです。

 先ほども書きましたように、企業が借り入れを商業銀行に申し込む場合、まずは現金や有価証券や不動産といったものを担保に入れることを求められるケースが多いはずです。で、それでも足りない時に、機械設備や使用権などを差し入れます。

 しかし、棚卸資産を担保に差し入れるには、その棚卸資産購入の資金決済が終わって、所有権が自社に無ければなりません。けれど、日本の場合、それはなかなか求めにくい用件であるように思います。なぜならば、棚卸し資産の代金の多くは未払い金や買い入れ債務でバランスシートにたっており、担保にできる金額は小さいからです。

 仮にこれらの棚卸資産と未払い金、買い入れ債務を一つのパッケージにしたうえでABLの証券化ができたとしたら、支払いサイトが来る前に棚卸資産をどんどん増やせばABL可能な限度額は大きくなります。これが膨らんで膨らんで膨らんだら……..ボーン!、破裂、ということはおきないものでしょうか。

《 供給超過関連商品ブームは何かのシグナルか 》
 もっとも不必要に脅すつもりは全然ありません。私も金融機関に勤務しているので、金融商品は非常に厳しい規制と制約条件を満たさないと開発できませんので、ABLという金融商品が危険だというつもりは毛頭ありません。「あつもの懲りてなますを拭」いてはならず、正しく使えば、金融商品というのはとても有益なものです。

 僕が申し挙げたかったのは、フラッシュマーケティングや動産担保融資というものが注目されている社会の背景には、「供給超過状況がまだ解決されていない」という認識を持つべきではないか、ということです。なぜならば、最適値プラスマイナスαの水準に物事があるのならば、これらはあまり注目されないはずだからです。

 東日本大震災に福島原子力発電所事故という厳しい社会情勢の中で、流通サービスの前年同月比の販売がそれほど落ち込んでいないことは喜ばしいことです。しかし、同時に今年度の個人所得は厳しい方向に向かうであろうと多くの日本の人間が考えていることも事実です。とすると、今の足下販売状況は素直に喜べない自分がいる。

 一方で世界を見ると、ドルの価値や一部の欧州国債の価値が落ちていく中で、金の価格がどんどん高くなっています。震災と原発事故でいまだ混乱が続く日本の円が米ドルよりも価値として強くなっていることと、「有事の金」価格が上がっていることもまた、私の中にはなんとなくスッキリしないものを残します。

 そこに「供給超過」を前提としたFMKTGとABLの登場。何か世界中がこの「供給超過」」の状態を必死で見て見ぬ振りをしようとしているのではないかとさえ思います。これからの半年こそが、むしろ、企業経営や財務、在庫、商品に関わる方々にとっては、気を引き締めなければいけない時期ではないかと思うのです。

 もちろん、相場観の悪いわたくしなので、未曾有の大好況が来てくれれば私も大喜びなのですが。

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