▼ 以前の勤務先(金融機関)の仲間と久々に飲んだ。気の置けない「戦友」とでも言うべき同僚ばかりで、昔話に、今の話にとあちこちに話ははずんだ。話題にのぼったのはやはり昔取った杵柄、株価や外国為替、運用の話。なかんづく、ビットコインに代表される仮想通貨については喧々諤々の議論になった。

▼ マーケットと同じで強気派もいれば、弱気派もいる。強気派の言い分はこうだ、「まだはもう、もうはまだなり。ネットでしか話題になってこなかった、一部の好事家のものだけだった仮想通貨がメディアで取り上げられ始めた今が最後の買い時で、来年が刈り取りの時期だろう」と。一方で弱気は「あの価格のボラティリティを見ろ。あれは投機であり投資ではない。裏付けのない価格は市場に期待/失望にレバレッジをかけて変動するものだ。」と話す。

▼ 私は後者に与するものである。ネット掲示板での書き込みを見ていて感じる違和感は、儲かったと喜んでいる帳簿上の評価額・運用益が「円」や「ドル」で書かれていることだ。ビットコインが円についで五番目の時価総額というならば、立派な通過だろう。にも関わらず、それをなぜ「円」「ドル」に換算しなければならないのか。それはビットコインがまさしく「仮想」通貨であるからだろう。

▼ 一部、ビットコインで決済できる店舗や商品も出てきているが、ビックカメラは30万円まで決済を引き上げたという。これは、(1)値上がり益で高額商品をより多く買ってもらうという能動的な姿勢、(2)単位あたりの円換算額が大きくなったので利用可能額を引き上げざるを得なかったいう受動的な姿勢の二つにわかれる。つまり、仮想通貨はあくまでも仮想通貨であり、法定通貨ではないということだ。ましてや、ストロングカレンシーではない。机上の計算額なのだ。

▼ 運用の基本は非常に高いパフォーマンスが出たら、法定通貨に換金し、利益を確定することだ。しかし、ビットコイン運用者の中でその基本を理解しているのは必ずしも多くはない。帳簿上、机上の評価額が膨らむということはこれまでのバブルでもしばしば起こる。チューリップ球根もそうだし、バブルの時の日本の地価もそうだ。IT関連株の株価が急騰したITバブルもそうだし、米国住宅価格が急騰したリーマン前のバブルもそうだ。すべてのバブルは、(1)はじけてから気づく、(2)余ったマネーが運用先を探して根拠のないものに向かう、の二点の性格を持つ。まさしく、仮想通貨はバブルだ。

▼ 既に行き先を失ったマネーは不動産を買い尽くし、ベンチャーキャピタルというリスクマネーに流れてアントレプレナー・IPOブームを作り、今、仮想通貨に流れ込んでいる。これだけ世界的に民族主義と地政学リスクが増大する中で、どうしてカネ余りになるというのか。ハイパーインフレを前提としないならば、保有資産として現金にまさる安全資産はない。金利がつかず、マクロ的にデフレであるならばなおさらだ。

▼ 「この道はいつか来た道」と感じることが増えた。この過剰流動性によって巻き起こされている様々な出来事-それは一見ポジティブな事象であることが多い-は、やがて期待が萎むにつれて、一気に安定感を失うだろう。その時に法定通貨に換金しようとしても無駄だ。それを嫌というほど感じたはずだが、人は忘れる生き物であり、なおかつ投資をする人間の世代交代も大きい。リーマンショックのCDOの怪しさと、それの空売りの道具としてCDSを使ったということを覚えている人は金融の世界ではもはや少数派だ。リーマンショックで多くの金融マンが職を失うか、転職を余儀なくされ、歴史を知るものはマーケットから消えたから。

▼ 東京の土地総価額で米国が買えた時代もあったし、ゴミのようなサブプライムローンをごっちゃにして確率変数だけで新しいCDOという商品を作り出して爆発的に売れた時代もあったのだ。ましてや、「マイニング」という意味不明の行動で新しい通貨が創れる?、そんなうまい話がある分けがなかろう。マイニングすべき取引はすべて法定通貨ベースなのであり、通貨(貨幣)が通貨(貨幣)を生み出すのは、マルクス経済学のG-W-G’というシンプルな変態が示すように、何らかの付加価値が付与されたときだけなのだ。マイニングがそれに値する付加価値とはとても思えない。

▼ 2017年も年末。起こり得ないとは思うものの、1989年12月末の日経225のピーク価格と翌年からの下落、1997年に三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行が破綻するまでピークアウトが実感できなかったあの頃とオーバーラップしているのはわたしだけではないだろう。多少なりとも救われるのは、日本ではアベノミクスと名付けられる金融緩和が行われ、景気回復があったことだ。

▼ しかし、それにしても金利はもはや0%水準。有効需要が生み出される保証はどこにもない。どこにもないどころか、企業は内部留保を手厚くして、「もしも」の時に備えているのが現実だ。財務レバレッジによるROE引き上げが重要だ?。ふざけちゃいけない。企業経営の生命線はキャッシュであり、財務体質だ。ROE経営を喜ぶのはエクイティ投資家だけで、デット投資家や銀行や取引先は誰も望んでいないということを知るべきだろう。