《 まずは言い訳 》
 以前から右肩をあがりにくくなっていて、「四十肩だなぁ」などと笑っていたのですが、今朝、なんだか妙に痛いことに気づきました。で、無茶なことが相変わらず好きなササキ。右腕を下にして「ストレッチだぁ」と右肩を潰すように伸ばしてみたり、「カンメルパスタ」という競走馬用のトンガラシエキスを塗ってみたり(ちなみに人間には使ってはいけないと書かれておりますが、ぎっくり腰などの緊急の時には劇的に効くのです)、熱い風呂に入ってみたりしたら、ついに腕を動かすのさえ痛くなってしまいました。今晩、箸を動かすのに苦労している間に、愚息が僕の分までおかずを取って食べてしまうのではないかときわめて不安です。

 ということで、今日のメールメッセージが短くなることの予防線をしっかりと張った上で、本文です(笑)。

《 学習塾産業の栄枯盛衰 》
 私が担当している主力の調査業種は小売業ですが、それ以外にも外食や食品卸、総合商社、サービス業も担当しております。特に昨年の夏からは東名阪在住企業だけではなく、地方本社の企業も担当するようになったため、小売業でも専門店や外食、学習塾といった依然と少し違った産業についての調査や助言をさせていただく機会が増えました。

 中でも学習塾は、小売業や外食以上に人口構成の影響を受けています。多くの学習塾はベビーブーマー以降の進学熱を起爆剤に企業化された産業であり、さらにベビーブーマージュニアの人口増加、そしてつい最近までの「ゆとり教育」による学力低下を背景に成長してきました。ですから、ベビーブーマージュニアが既に成人となり、少子化の進展、さらには文部科学省の「ゆとり教育」廃止と公立の中高一貫校の整備などのため、きわめて厳しい業績環境にあります。

 多くの小学生、中学生相手の学習塾は、首都圏や関西圏の一部を除けば、地元の有力公立進学高校に合格させることが顧客(=親)の望むミッションです。そしてたいていの公立高校は内申点と入試点数で合否を決める仕組みになっており、この割合が都道府県によって違いがある以外は、決定的な差別化の要素はありません。その割合さえわかっていれば比較的ドミナンス拡大は容易であり、事実、いくつかの大手学習塾はドミナンスをかなり拡大しきってしまいました。

《 非正規雇用者の自主性で収益を伸ばした塾産業 》
 実は私も大学生時代の四年間、一番熱心にやっていたのはこの学習塾の講師のアルバイトでした。とはいえ、それはアルバイトというレベルではなく、ほとんど正社員に近いほど熱を入れていました。

 教室やクラス、レベルごとにテキストと違う独自のプリントを作成したり、成績の優秀な子には自信を持たせるために東大や京大の入試問題から現時点の学力でも解ける問題を探してきて解かせてみたり、休日である日曜日に定期テスト対策の補習授業を無報酬でしたりしたものです。実際、1980年代に大きく業績を伸ばした学習塾の多くは、このアルバイト学生講師のモチベーションを上手に生かした、少し嫌な言い方をすれば、コストの安い労働力をうまく使って合格率=収益性をあげたといっても過言ではありません。

 しかし、ご存じの通り、わたくしでさえ「新人類」と呼ばれた世代です。その後の学生は、無報酬で生徒のために何かをするようなお人好しではありませんでした。学生講師の質は徐々に低下する一方で、ドミナンスはひたすら拡大する。それを期待した企業側も甘えていたと思いますが、この「おいしい」ビジネスモデルはとても変えられなかったのでしょう。やがて、好意だけでは動いてくれない正社員講師の教育の手薄さと定着率の悪さ、合格率=収益性の低迷、手広く広げすぎたドミナンスの維持不可能という現象が収益の低迷を生んでしまいました。今や学習塾産業は、差別化がきわめて難しい成熟産業となってしまいました。

《 好意に頼る企業の命脈はいずれ尽きる 》
 と、ここまで書いてきたのはトヨタの最近のていたらくを思い出してのことです。

 間違いなくトヨタは財務的にも技術的にも優秀なグローバル企業です。今回のリコール問題にしても、フロアマットの件はユーザーがもう少し気をつければよいだけの話でしょうし、(プリウス以外の)ブレーキ不良も寺島実郎さんによれば米国部品メーカーを使うことを強要された弊害であるという意見もあるそうです。

 ただ、プリウスのブレーキ不良に関しての会見で最初に述べられた「顧客の感覚と実際の動作にずれがあっただけ」という言葉はまさしくトヨタが裸の王様になっている現状を示しているように思えてなりません。ブレーキから電力を取り出す回生ブレーキという新技術が従来のブレーキの感覚とズレがあるならば、それをとことん取り除いて商品にするからこそ新技術は価値があります。使用するのに特別な技術がいる新技術はユーザーフレンドリーとは言えないでしょう。にも関わらず、「俺たちは悪くない。新技術に慣れない客が悪いんだ。」と聞こえる発言はあまりに高飛車な発言です。

 トヨタはカンバン方式ですばらしい成果を上げてきた企業です。しかし同時にそれらは多くの子会社、元請け、下請け、そしてモチベーションの高い正社員や非正規雇用者によって支えられているシステムでもあります。常に自社を支えているそうした縁の下の力持ちのことをちと忘れかけているのではないかという点で、最近の学習塾の業績低迷とトヨタの今回の出来事が重なったというのは言い過ぎでしょうか。

 実際、ある辛口の自動車雑誌によればトヨタの多くの新車はコンピューター上のシミュレーションによってコンセプトが作られ、あとは子会社に丸投げして「よろしく!」で終わりの社主が多くなっていると書かれていました。モチベーションの高い人々の好意に頼っているだけでは、いずれは企業の命脈はつきるような気がしてなりません。

 最近、デール・カーネギーの「人を動かす」を30年ぶりに再読しています。30年前には理解できなかったことが、今は心に響きます。マイケル・ポーターやドラッカーといった近代経営論もよいのですが、1888年生まれのこの作家による、ちょっと古くさい人間関係論、啓発書は、近代経営論ではちょっと忘れかけたウェットな本質を思い出させてくれます。書店では最新の改訂版が売られていますが、改訂前の版でも十二分にそのエッセンスはわかります。アマゾンやe-bookoffなどのネット古本屋さんを覗けば、信じられない値段で買えますので、是非、お読みになることをお奨めします。

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