《 流行語「ユニクロ型デフレ」 》
 文藝春秋新年特別号で「ユニクロ型デフレで日本は沈む」という記事が載っております。まぁ、日本のマスメディアは「崩壊」させたり、「沈没」させたり、「消滅」させたりするのが好きという性質を持っていますが、今回ばかりはちょっと真剣に読んでしまいました。というのも、デフレ生活が果たして何を生み出すのかということを如実に感じていたからであります。

《 住宅ローンと生活縮小体験 》
 実はこの夏から住宅ローンを再び背負うことになりました。前に千葉のマンションを買った時にも住宅ローンは背負っていたのですけど、業務上の関係で都心に住まざるを得ず、千葉マンションを売却して賃貸マンションに住んでいたため、ここ数年は住宅ローンをもっていなかったのです。で、家族や子供の教育などを考えて、久々に住宅ローンを背負ったのですが、これが重いのなんの!。いやー、忘れていた記憶がよみがえりました。「借金を返済する」というのはこれほど重いプレッシャーだったのですね。

 で、慌てて家族会議をしまして、まずは不要不急の経費削減と少額ずつでも繰上返済をしていこうと決めました。ま、そこからがちょっと強烈なんですが、まず私の書斎の蛍光灯四本入りの照明器具から日本蛍光灯を外しました。ポーチの照明も17-24時までついていたのを18-21時までに短縮し、もちろん外食はしない。私の昼飯もビルの中のレストランから105円コンビニお握り×2個+給湯室のお茶に変えました。

 まあササキはやるときは極端と言えば極端な人間でありまして、徹底的にコスト削減をしたわけです。

《 精神を病む耐乏生活 》
 最初は結構楽しかったのです。105円お握り二個だとテキメンに痩せていきますし、呑み会もビール一杯しか飲まなければ健康にもよろしい。車も二週間に一度しか乗らないで、古本屋で本を買うときは一冊100円のバーゲン本でも面白いものはありますし、そもそも物置の段ボールには学生時代、社会人になってから買いためたゴマンという漫画や本がある。何も新しく買わなくてもいいではないか。そんな気分で来ておりました。

 ところが一ヶ月経ち、二ヶ月経ち、三ヶ月目に入った頃から、なんというか気持ちがイライラするのですね。いや、イライラすると言うよりも無気力になる、どよーんとするといった方がいいでしょうか。毎日がエキサイティングな感じがしないわけです。その代わり頭の中に浮かぶのが住宅ローンの重さと、今後払いきれるのかなあというネガティブな感情ばかり。最初は体が疲れているからなのかしらん、と思っていたのですが、寝ても寝てもその気分は消えないわけです。

 で、先週、この三ヶ月行っていなかった按摩さんから連絡がありまして、「佐々木さん、景気悪くてヒマでしょうがないから、たまに来なよ」とお誘いが。そうそうマッサージもコストダウンしていたんだとということで、これも縁かと揉んでもらっているときに言われたのがこんな台詞。「佐々木さん、住宅ローン返すことだけに人生使っていくつもりなの?。そもそも、なんでそんな105円のお握りとか蛍光灯二本消すとか自分を縛るわけ?。それって、アンタが言ってた部分最適は全体最適にならないってやつじゃないの?」と。

《 デフレは経済問題ではなく精神衛生問題だ 》
 このコメントには眼前の霧が晴れる思いでした。なるほど、そうか、「縮み志向」というのはこういうもんなんだと痛感しましたね。一見、給与が伸びない中で安物あさりで生活防衛に入るというのはフレッシュな考えです。しかしながら、常に将来は縮小に入っていき、それに合わせていかなければならないというのは相当程度に精神を痛めつける思想というか発想なのだなああと。

 もちろんインフレ経済がすべてである、バブルは資本主義の必要悪だ、とまではいうつもりはありません。しかし、昔より今、今よりは明日、物事は拡大していくだろうという発想がなくなるとそれは単なるデフレという現象だけではなく、人間の精神を蝕むものなのではなかろうかということを、ここ三ヶ月の経験で実感した気がします。

 それよりも、「まぁ、苦しいから、節約するところは節約するけどよー、ぱーっとやるときはやっぺーよー!」という楽観的な発想の方が人生は楽しいのではないかしらんと。で、これが文藝春秋で書いていた論文の根っこなのではないかしらんと思った次第です。

《 敵はユニクロではない 》
 「それにしてもユニクロ型デフレ」がひどいタイトルではあります。ファーストリテイリングの製販統合サプライチェーン構築の努力は生半可なものではありませんし、この仕組みによって多くの消費者が恩恵を受けたことも事実。こうしたところにも、なにかにつけてスケープゴートを探そうという我々の浅ましさを感じますね。本当の敵は何なのかをもっともっときちんと見極める時機なのではないでしょうか。

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