《 残存者利得と言ふもの 》
 「残存者利得」という言葉があります。競合がきつくなる中で、競争相手が脱落し、最終的に残った者が市場シェアや収益を得られるようになった状況を言います。最近のはやり英語では” Winners take all.(勝ち組総取り)”などとも言います。2000年の大店立地法による出店規制の緩和の際に、あれほど多くの小売店が採算度外視の出店競争をしたのも、まさしく残存者利得を得ることが目的でした。

 しかし、それがさほど簡単なことではないことも我々は知っています。経営学の教科書的に言えば、(1)競合が激化して、(2)営業面積や人員あたりの単位売上高が減少、(3)それにともあって収益性は低下し、(4)投資採算が株主の要求する配当や銀行の要求する金利を割り込み、(5)やがてはキャッシュフローさえも回らなくなって、(6)泣く泣く撤退することで、(7)企業数は適正なレベルに均衡することになっています。

 ところがあにはからんや、競合相手はみな採算を度外視し、稼いでいる他エリアや他セグメントの利益をつぎ込んでもなかなか市場から去ろうとはしません。毎度おなじみの言葉で、もう飽きてしまわれてしまったかも知れませんが、「回転差資金」という打出の小槌を持っている小売業、外食業は特にその傾向が強い。参加企業全社が共倒れになるのでは、というほどの低収益まで達することも少なくありません。

 ですから、「残存者利得」はあくまでも理屈の話であり、現実の世界ではあり得んなああというのが佐々木の正直な気持ちでありました。

《 残存者利得は仕入れ先からも 》
 しかしながら、この「残存者利得」を得ている、もしくはもう少しで得られそうだという企業を数社目の当たりにしてしまって驚いたのです。

 ひとつめの例は、ある中間流通の会社です。取り扱っている商品はごく一般的なものですし、顧客としているのもごく普通の量販店です。言うまでもなくメーカーと小売業の間に挟まれて四苦八苦しているであろうというのが、お話しを伺うまでの私の予想でした。

 ところがあにはからんや、業績はかなり好調で、営業増益、営業利益率も改善していらっしゃいます。何故にこんな状況でいらっしゃるのかと思えば要因は二点、(1)同業他社の卸の廃業が相次いでいる、(2)効率の悪くなったメーカー(仕入れ先)が支店を閉じるケースが多い=その営業代行を依頼されることが増えたからだそうであります。うーむ、なるほど。(1)はまさしく残存者利得そのものでありますが、(2)は盲点でした。メーカーにとっても生き残った卸売業は販売網の維持、顧客メンテナンスの維持から重要な存在なのですね。

《 GMSにも残存者利得? 》
 ふたつめの例は、地方スーパーです。もちろんこの客数もダウン、客単価もダウン、おまけに高粗利益率の衣料品が壊滅的という状況で、苦しい戦いを余儀なくされています。これまでのスーパーのビジネスをどのようにモデルチェンジしていくのが悩みなのだと、お話しを伺った複数のスーパーはいずこも似たような悩みを口にされました。

 でも、なのです。苦しいよ、大変だよ、どうやって変化をしていくべきかねぇと悩みを口に出される一方で、世間一般的にはもうダメだと言われているGMSにも生きる道はあるということも必ずおっしゃるのですね。理由は、(1)NSCじゃないワンストップショッピングは多雨の日本においてやはり利便性が高いことと、(2)GMSで買い物を知った世代は意外とGMS離れをしていない、ということでした。

《 GMS世代のワタシ 》
 なるほど言われてみれば、私も妻も40歳代の半ばですが、いまだに週末に買い物に行くときはGMS(もしくはGMSがデベをしているSC)へ行きます。行動パターンとしては、車を駐めてから一気に最上階に上がり、妻とテレテレと本屋で雑誌を物色したり、生活雑貨を冷やかしては、二階の衣料品売り場へ。ここで妻は流行の格安ジーパンに目を留め、私はPBのトランクス180円なんていう値段にビックリしたりしています。で、最後は食品売場で土日の鍋の材料をあさります。鱈が安いの、いや鳥鍋が良さそうだの、ここは白菜が高いだの、日曜日の昼飯はめっきり値段が下がった焼きそばにするべぇなどとと話しながらマイバッグにふたつばかし買い物をして、駐車料金が無料の三時間ぴったりくらいで帰る。

 で、これはこれで結構楽しいお出かけなのです。中学生の息子は土曜日も学校がありますし、そもそも彼はもう買い物なんぞにはついてこないので、妻とのこのお出かけがかろうじて夫婦仲を維持しているイベントなのかもしれません。

 そう考えると、アナリストや機関投資家、そして業界関係者が言うほどGMSというものを少なくとも我が家では嫌っておりません。で、それは何故かと言えば、(1)近くにあって、(2)自分達が慣れているから、です。となると、徹底的にドミナンスを攻略し、少しずつで良いからモデルチェンジをしていくことができるならば、意外とドミナントGMSというのは強い存在なのかもしれません。事実、今回お話しを伺ったGMSはいずこも比較的店歴が古いお店が多く、同時にSSMも積極的に展開しています。ということは、地方スーパーというあまりポジティブなトーンで呼ばれない彼らは、意外と「残存者利得」を受けている方だと言えるのかも知れません。

《 不況の建材屋さんまで 》
 最後の例は、全く畑違いの上下水道用管工機材の企業です。「なんで、そんな企業のこと知ってるのん?」と言われそうですが、実は決算説明会の会場を間違えてしまいました(苦笑)。かといって、参加者が10人程度という会場から出て行くこともできずに最後までお話しを伺ったのですが、これが予想以上に面白く、やはりキーワードは「残存者利得」。

 これだけ住宅着工が伸び悩む中で、当然この会社さんもしんどい売上なのですが、経営陣は予想外にニコニコ。何故かといえば、一番目の例でお話しした中間流通業と同じく、(1)同業他社が脱落していっている、(2)資金繰りの厳しいユーザーが在庫を持たずにこの管工機材屋さんの在庫ヤードを使ってくれる、からだそうです。いやはやなるほど。関西出身の社長さんは「不景気はチャンスですわ」とおっしゃっていたのが印象的でありました。

《 残存者利得=景気悪化最終局面? 》
 前々回の「らしさ」と「無意識の抵抗勢力」、はたまたその前の「西友」もそうですが、わずか一週間のうちに似たようなお話しを聞くときと言うのは経験上「要注意」であることが多い。普段はネガティブな言葉として使われがちな「残存者利得」、景気悪化、業績ダメージの大きい今だからこそ、実はエンジョイし始めているところが出始めているのかも知れません。眉間に皺を寄せて、「困ったものです、ハァー」とため息をついているのはテレビのニュースショーのキャスターの演出なのかもしれませんぞ。「商いは飽きない」の鉄則を守って、儲けるところは儲けているような気がいたします。

 いつもの余談で、失礼致しました。

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