• いよいよMicrosoftのWindows10のサポート期限が終了した。ESUというプログラムを入手してインストールすれば、あと一年はWindows10を引き続き使用できるが、このESUプログラム、無料と有料(個人)と有料(法人)があるため少々ややこしいし、どうせ一年後にはWindows11に入れ替えなければならないのだからとアップグレードした人も多いだろう。筆者のメインマシンであるデスクトップも10年前に大枚40万円を出して買ったヤツだが、なんとWindows11にアップグレードするには「部品のスペック(性能)が不足しているため、Windows11では使えません」と親切な警告(もちろん嫌味)が始まって二年が経った。この警告を見る度に、いまいましく思うのだけど、かといって自分でその部品を入れ替えてWondows11を使えるようにできるほどの知識はない。よって、家族のも含めて、家中のパソコンをWindows11に買い換えた。
  • しかし、だ。結論から言えば、この買い換えのせいで、ほぼここ一ヶ月は完全な寝不足状態となっている。いや、パソコンはすぐに買えた。家電量販店にいくのもよし、メーカーごとの直販ECで買うのもよし、オークションサイトで中古のマシンを買うのもよし、だから。ちなみに筆者はメーカー直販サイトから買っている。ところが、「Windows11による仕様変更」という問題が密かに意地の悪い微笑みを浮かべながら筆者を待っていることを知らなかった。
  • まず困るのが「Microsoftアカウント」というやつが使用者一人一人保有せねばならなくなったことだ。それまでは筆者が家族のパソコンを買って、それぞれのパソコンを使う家族の名前だけを設定すれば良かった。Microsoft365、要するにMicrosoft  Officeも筆者が家族分のライセンスを買って、インストールすれば難なく使えた。多少面倒なのはブラウザのブックマークやデータの移行だが、ブラウザはパスコードを決めれば他のマシンの同じブラウザにブックマークやそのほかを同期してくれるようになったし、データも大容量のストレージが安く手に入るので、昔にくらべれば遙かに簡単だ。Microsoft  Office以外のソフトウエア(今はアプリというのかな)も、ダウンロード購入したものならばインストールする時に顧客IDとパスワードを入れるだけで使い始めることができるようになった。便利この上ない世の中になった…はずなのだが。
  • Windows11のMicrosoftアカウントは、死ぬほどややこしい。これに気づいたのは愚息がある日「親父、なんだかエクセル使えなくなったんだけど」と一ヶ月前に訴えてきた時だ。まだヤツのマシンがWindows10で、何も変わってない。でも、いわゆるマイクロソフトオフィスが使えないという。Microsoftのサポートに連絡するが、チャット機能は全く頓珍漢な答えを返してくるし、電話は当然繋がらない(コールセンターあるある、だ)。困り果てて頼ったのが、生成AI。Gemini君とchatGTP君だ。細かに症状をプロンプトに打ち込み、原因を訊き、どうしたら解決するかを尋ねると瞬時に明快な答えが返ってきた。
  • つまりは、Windows10を使っていても、Microsoft365=オフィスの仕様が変わり、家族それぞれがMicrosoftアカウントというアカウントを設定しないと動かなくなったそうだ。ダチョウ倶楽部じゃないが「聞いてないよー」である。しかも、そのアカウントを各自が設定すると、今までのMicrosoft365ではだめで、違うアカウントを持つ家族でもインストールできるMicrosoft 365 Familyというやつに買い変えなければならないという。おいおい、俺が買ったMicrosoft 365の権利はどこに消えたんだ!?。頭に血が上る。とはいえ、使えないのでは愚息も仕事に差し障りがあるから、仕方なくMicrosoft 365 Familyをダウンロード販売で買った。比較的安価な追い金だけで済んだことは、ちょっとだけ良心的ではある。とはいえ、追い金は追い金だ。どうも釈然としない。
  • さらに釈然としない出来事は二週間前に起きた。いよいよ愚息のPC設定にとりかかったのだが、新品のPCなのになぜだか勝手にMicrosoft365個人版だかお試し版だかをインストールする画面にさしかかる。いやいや、俺はFamilyライセンス買ってんだから、勝手にインストールするなよと思い「インストールをキャンセル」ボタンを探すがどこにもない。どうやらこのまま進むしかないので、仕方なく進めたら無事PCは立ち上がった。しかし、今度は自分が買ったMicrosoft365Familyがインストールできない。「不明なエラーが出ました。時間をおいてインストールするか、サポートに問い合わせてください」と警告が出る。バカモノ。そのサポートが使えないから困っているんだろうが。
  • しかたなく生成AI君に再度訊く。さきほどと同じように明快に答えてくれるが、ちとその方法がややこしい。つまり、その勝手にインストールされたMicrosoft365個人版をアンインストール(消去)しろ、と。しかも、そのソフト(アプリ)をつかわないうちに、だと。イヤイヤ、あなた簡単に言うけどね。パソコンのソフト(プリ)、特にMicrosoft365は一個のファイルじゃなくて、Teamsとか色々なファイルやソフト(アプリ)に分散してんのよ。どれを消せばいいのよ?。再度訊くと「関連するすべてのファイルを消去してください」と来たもんだ。いや、だから、その「すべて」がどれかわかんないのよ。で、ここから20時間に始まる苦闘が始まる。
  • まず工場出荷時の状態に戻す。これだけで2時間くらいかかる。愚息のアカウントとパスワードを入れて、設定を始める。立ち上がったら、即座にMicrosoft365個人版「らしき」ファイルを消す。で、自分のMicrosoft 365 Familyをインストールするが...先ほどと同じ警告。どうやら消去し切れてなかったファイルが残っていたようだ。仕方ない。また二時間かけて工場出荷時の状態に戻して、設定を始めるが、ダメ。これを6回繰り返したが、もはや目が霞み、心は苛立ち、疲れてくる。ふと時計を見ると、もう夜中の24時だ。今朝の6時からやってんだぞ!。これを最後にしようと7回目の同じ作業。ただ、今度は徹底的にMicrosoft365個人版に関係ありそうなファイルは全部消す。断固消す。なんと言っても消す!と決めて作業し、祈る気持ちでMicrosoft365Familyをインストールする。おぉ!!インストールできた。うん、筆者のメールにも「家族がMicrosoft365Familyをインストールなさいました」とお知らせが送られてきた。あとは実際にエクセルやワードなどを立ち上げて動作確認すればヤマは超える。。。のだが、もう限界。ベッドに倒れ込む。それから一週間。忙しいのもあるが、もう愚息のパソコンを開くのも嫌だ。なにより、もしエクセルが動かなかったらと考えると、またあの20時間を費やすのか?。それで怖くて、これを書いている今も放置状態だ。
  • それに比べればバッテリー容量が怪しくなって機種変更したiPhoneの移行のシンプルかつわかりやすさ、よ。古いiPhoneと新しいiPhoneを立ち上げて机においておく。指示に従って、新しいiPhoneで使う言語と自宅Wi-Fiのパスワードを一回だけいれる。そうすると、「古い機種から移行しますか?移行するなば、カメラ画面で古いiPhoneの画面に出ている画面を撮影してください」とやさしく教えてくれる。古いiPhoneご画面に映っているモヤモヤの雲を撮影する。あとは放っておくだけだ(クイックスタート)。これで古いiPhoneのアプリからデータから設定まで全部読み取って、アプリも最新版をダウンロードしてきてくれて、はい、オシマイ。LINEなどごく一部のアプリは手動でやらねばならない作業もあるがほぼ95%自動で移行。素晴らしい。と同時に、「Microsoft憎し」の感情が蘇る。なんで世界一番のシェアを持つメーカー(Microsoft)がこれ(Apple)と同じことができぬ?。
  • しかも、Windows11はアップデートを素直にするとやたらにトラブる。この前はあるメーカーのプリンターが動かなくなったり、もっと怖いのはハードディスクやSSDといった記憶媒体が認識されなくなるという。もうホラーだ。しかも、それを解決する方法は自分で情報収集しなければならない。専門家のSNSを読んで、検索をして、生成AIに訊いて。それでも解決しないときは、ひたすら新しいアップデートが出るのを待つか、もしくはアップデートをいったん取り消すしかないが、これが一筋縄ではいかない。そしてサポートセンターは相変わらず「使えない」。これがAppleのサポートセンターだと、「こんなに丁寧に教えてくれるのか」というほど丁寧に教えてくれ、対応に出た人が分からないときは「テクニカルスタッフからかけ直しますがよろしいですか?」と訊いてくれる。こういうケースでは、その後なしのつぶてになるのだが、きちんとかけ直してきてくれる。都会に住んでいれば予約をしてAppleストアを尋ねれば。まずたいていのことは解決する。
  • さて、この二社の差を考えると流通担当の調査分析をする筆者は少々背筋に寒いものが走る。Microsoftという世界一のメーカーのサポートでさえ、まともに答えられないのだ。販売店がトラブルの原因を答え、解決してくれる可能性は極めて小さい。販売店によっては有料サポートをしているところもあるが、筆者の経験からすれば彼らも万能ではない。解決できないこともしばしばある。そうすると販売店の存在意義は何か?。そう、「ショールーミング」だ。現物の質感や使い勝手を確認しには行くが、型番をメモして、買うのは家からネットだ。うまくいけば、ポイントで安く買えちゃったりする。この現象はパソコンだけじゃなく、携帯電話のキャリアショップもそうなりつつある。まず、携帯電話の値段がネットで買うよりも高い。おまけに、殆どの手続きは携帯電話キャリアのネット上で完了する。支払はクレジットカードだ。
  • Windows11の買い替え需要や酷暑によるエアコン売上で家電量販店の上期業績はかなり好調だったことが決算報告で報じられている。しかし、これからも家電量販店のような販売店で買うだろうか?。パソコンは直販で買って、トラブルは生成AIに訊けば解決方法は瞬時に出る。携帯電話は電話自身をメーカーで安く買って、料金プラン等は携帯電話キャリアのネットで全部変更できる。そして、エアコンが一番安く手に入るのはラジオ通販だ。最新エアコンがほぼ販売店の2/3~半値で、しかも今使っているエアコンは一台数万円で下取りしてくれる。三台買い換えても下取り料金込みだと10万円だそうだ。しかも、新しいエアコンは電気を食わない。10年前のエアコンのおおよそ半分の消費電力だという。筆者は思わず電話をかけそうになった。
  • これはなにもパソコンや携帯電話や家電に限ったことではない。筆者のパートナーは「生協大好き」だ。毎週一回、生活協同組合のサワヤカなお兄さんが商品を届けてくれる。野菜、魚、肉、雑貨、服、時には保険(共済)などのサービスまで。魚や肉の多くは冷凍なのだが、侮るなかれ、「旨い」。そう現代の冷凍技術は素晴らしいのだ。生協は若干お値段が高いのが玉に瑕だが、それが無視できるならば、週に二回、配送して貰えばリアル買い物は殆ど不要となる。しかも、生協の宅配部門は黒字なので(むしろ店舗部門は赤字)、社会問題となっている物流コストや不在再配送の問題もない。なぜならば、「その日は出かけていないんです」と事前に連絡すれば、玄関の片隅にきちんと悪さができないようにカバーをかけて、保冷剤をガッツリ入れて置き配してくれるため、再配送する必要がない。
  • あるアナリストの先輩から、「少子化、労働力人口が減少する中、配送する人手がいなくなって、ECや宅配が廃れるんじゃないの?」と訊かれた。しかし、そうはならない気がしている。手渡しから置き配に移っているし、再配送はエクストラ料金を徴収すればいいだけだ。在宅時間に配送するため、既に宅配会社の何社かは事前に何時に配送に行けばよいかメールで尋ねてくるようになった。さらには自動運転だ。日本はレベル3しかゆるされていないが、米国ではレベル4までが許されている。これをレベル5、つまり完全自動運転を許可するのはさほど遠い将来ではない。日本の自動運転のレベルが低いのは多分に省庁からの許可がおりないからだ。しかし、その技術進化は既にテレビCMでも実際に最新の自動車に乗っても理解できる。つまり、「リアル対面買い物にいくのは、嗜好・趣味の世界になる」時代が近いということだ。
  • 何年前だろう、多分10数年前だろう。あるコンビニの経営陣と話している時に「一番怖いのはなんですか?」と尋ねたら、「自動運転」と答えてくれたことがある。理由は簡単で、1)別に近いからとコンビニまで歩いてくる必要はなく自動運転タクシーを呼んで好きなスーパーやモールに行けばよくなる、2)自動運転配送車で運べばECや宅配はさらに発展する、からだと。そして確かにそれは夢物語ではなくなりつつある。「対面買い物が嗜好と趣味の世界」になるならば、自動化やリテールIT・DXは流通業の競争力を弱体化させることになり、むしろ、「人と人と接して話ながらの接客」が競合上の強みになるような気もする。「人は社会的な存在」だから、やはり人には会いたいのが人情だからだ。Windows11のインストールをして、そんなことを考えた。

                             (了)

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