• 早くも師走も半ばで、クリスマスまでもう五日。世は忘年会真っ盛り。若年世代が「会社の呑み会も仕事ですよね」と上司に迫るという話は珍しくなくなったが、それでも、おいしいものを食べながら、ああだ、こうだと同僚や友人と話すのは無条件に楽しい。また、飲物のバラエティも増えて、ノンアルコール飲料のバラエティはぐーんと増えたし、「カシスウーロン」とか甘めのお酒を男性でも堂々と頼めるようになったため、随分と忘年会は気楽となった気がする。
  • 筆者も有り難い事に「忘年会行こうぜ」のお誘いを受けて、いそいそと飲食店に向かう日々だ。「飲食不況」と言われるが、予約サイトで人気店の希望日時と希望店舗を確保するのは相変わらず難しいし、入店してみると列をなして顧客が入口で溢れている。実質所得が伸び悩んで、個人消費が苦しいといえども、こういう感じは「年の瀬」という感じで心和むものがある。当然店内は満員。テーブル席からカウンター席まで18-19時は次から次に席が埋まっていく。「人手不足」の昨今、タブレット注文やQRコード注文といった技術革新で、ホール係の人数の少なさをカバーしているが、それでも席への案内と乾杯ドリンク一杯目の注文は人が取りに来るので、やっぱり忙しそうだ。先日、知人と行った店もあっという間に満席になり、話し声と笑い声で賑やかこの上ない。お手洗いも順番待ちだ。
  • 当方、しばし久々の知人との再会で、どうしていたかの近況報告と食事に忙しい。予約していた2時間コースはあっという間にラストオーダーになり、デザートが出たところで「ちょっと失礼」と断ってレジで精算。クレジットカードで精算して、客席に戻ろうとすると何かおかしい。何がおかしいのか?。そう、あれほど入店の時は混んでいたのにざっくり三分の二はもう空席なのだ。ここの閉店は23時。今は20時。いやいや、これから1-2回転するところでしょう。ところが、店を出るお客さんばかりで入ってくるお客さんはいない。ちょっと嫌な感じを感じた。
  • 最近、しばしば家の近所の飲食店に夕飯を一人で食べに行くようになった。子供が仕事から帰るのは終電時刻だし、パートナーもライブや観劇や友人の会食と、家族で夕飯をともにする回数が減ったからだ。幸い、筆者の住む街は個人経営の飲食店が結構多く、それを順繰りに回って、四方山話をマスターやおかみさんとするのは結構楽しい。「あそこの歯医者さん、酔って、XXXのマスター殴って被害届出されているみたいよ」なんていう噂話も、近所の寄り合いのようで楽しい。ただ、一方で当方の仕事の関係で、飲食業界に踏み込んだ話をしたりすると、それまで笑顔だったマスターの顔が突然曇る。要はこうだ。「コロナ禍のあと、お客さんの行動が変わって家の近くで呑まなくなった」「オフィスのある都心で飲んでも、一軒だけで家に帰ってくるので、二次会にいかない」「以前は、どの曜日がどのくらいの来店があるか予想がついたが、全く読めなくなり、ボウズ(一人も客が来ないこと)も珍しくない」「そのため、食材在庫のロスが増えているので、メニューの種類を減らさざるを得なくなった」、などなどである。
  • そのため、近所だけではなく、あちこちで必然的に店を閉じるところが増えた。閉店のお知らせや、飲食店の一覧が載っている看板に空きスペースが増えているのはよく目にするところだろう。特に空きスペース看板が目立つのはオフィスビルの地下飲食街だ。いまは在宅勤務から出勤にもどりつつあるので一時期ほどではなくなったが、コロナ禍のゼロゼロ融資が返せず閉店した店舗の看板が、集合看板の中で白いアクリル板に1/3ほど変わって店名が消えていることも少なくなかった。また、今でもクラブやスナックのある界隈では上を見上げると、空きフロアが白い看板になっているのを見るのは難しくない。
  • ところが奇妙なのが、上場しているような大手の外食業の景況感はさほど悪くないことだ。むしろ、人手不足や食材費高騰といったコスト面での問題が悩みのタネではあるが、業績悪化とは言いがたい。下記は大和証券のマンスリーレポー2025年11月25日号からの引用だが、個人飲食店とのギャップを感じて貰えるだろう。
  • 個人飲食店と大手チェーン飲食店の業績の大きな格差。それは飲食店事業の違和感となって筆者の心を惑わせる。などと書いていたら、昨夜、馴染みの飲み屋に行ったら、マスターが声を潜めて話しかけた。「XXXさんのこと、知ってます?。1月4日を最後に閉店だそうです」。吃驚した。一年で閉店するのが50%といわれる飲食業界、しかも盛り場ではなく住宅地に立地する馴染み客だけを相手にしているにも関わらず13周年を祝ったばかりだ。どうやら、そこも含めて数軒もっているオーナーの経営が傾いたらしい。
  • XXXを支えてきたマスターへの給料も遅配となっているそうだが、マスターはもう一年前から変調に気づいていたようだ。それは仕入業者である食品卸や酒販卸の態度だ。多分、支払も延長するか、ジャンプをオーナーが頼んでいたのだろう。注文したものが、時間通りに来ないと嘆くマスターをこの一年、確かに何度も見ていた。一方でオーナーは豪遊をやめず、高級車をショーファードリブンで乗り回し、家族と贅沢三昧を続けているようだ。未公開企業であるため会計監査は入らないが、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社が目を付けることはあり得るだろう。また債権のうち、もっとも責任が重い労働債権を支払っていないにもかかわらず、豪遊し、万が一破綻した場合「背任行為」と見なされ刑法の背任罪や会社法の特別背任罪が適用されるリスクもある。ただマスターいわく「オーナーは財務諸表も読めない人ですから、深刻さがわかっていないのでしょう」と。
  • 人口減少、少子化、地方の衰退などで小売業の業績状況が悪化していることは明らかだ。それは統合再編や事業閉鎖などが増えていることからもわかる。ただ、飲食業、外食は「消費しなくても良い」という一種の奢侈消費でもある。その影響は小売業よりも大きいのかもしれない。加えて、外食・飲食業の多くの店舗不動産は賃貸だ。不動産価格の高騰に伴って、賃貸物件の賃料の値上げもまた続いている。人件費高騰、不動産賃料の値上がり、食材の価格高騰など外食・飲食業と取り巻く環境は小売業以上に厳しいようにも思う。忘年会で賑わう様子はほっとするものがある一方で、1~1.5回転しかしない店舗回転率の悪さは容易には改善しそうもない。外食の代表指標であるLF比率(Labor;人件費、Foods;食材費)ではLのウェイトが高い。とすれば、小売業以上にIT化、DX化、自動調理やセントラルキッチンかなどの資本集約産業に向かうしかない。飲食業の面白さは、大将やおかみさんなどとのコミュニケーションなのだが、それも今後は望み憎くなると言うことか。

         (了)

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