• 2025年の年末も押し迫った。今日は少しお気楽な話を。
  • 我が家では、大晦日の夜に鴨鍋兼年越しそばを食べながら「紅白歌合戦」を見るのが恒例になっている。その構成について毎年、議論噴出のこの歌番組だが、なんだかんだと言いながら、これを見切ってから除夜の鐘を聞くのが通例だ。これを書いている12/27時点でも「特別枠」として堺正章さん、松任谷由実さんや星野源さん、玉置浩二さん、矢沢永吉さんなど筆者世代には垂涎のアーティストが出ることが正式発表され、今から楽しみだ。ネットニュースでは、さらに中森明菜さんや松田聖子さん、サザンオールスターズなどの出演も噂されている。「なんでぇ、小出しに出し惜しみしないで、さっさと発表しろよ」という声もあるが、まぁいいじゃないの。
  • そんな中、筆者が密かに楽しみにしているのは「AKB48 20周年スーパーヒットメドレー」だ。というのも、先日床の中でYouTubeをツラツラと見ていて、2025年12月初めに開催された「AKB48の20周年記念コンサート」のアーカイブを見てしまったからだ。このアイドルグループは大活躍したと同時に、とにかく毀誉褒貶の激しい記事やらSNS書き込みが乱立した。メンバーの年齢、そしてデビューしてからもメンバー同士での人気を競わせるという方式は、本人達には辛くしんどいことだったろう。「卒業」という名称でグループを脱退し、ソロになった際にそのストレスからの解放に胸をなで下ろした向きも少なくなかっただろう。事実、YouTubeに残る当時のライブやそのドキュメンタリーを見ると、全員が笑顔を作りながら、誰も心から笑っているように見えない。残酷といえば、残酷な仕組みではあった。
  • しかしながら、その「20周年記念コンサート」では、既に30代となり、母でもあれば、色々な苦い経験をしてきた、もはや「アイドル」と呼ぶには「薹が立った」彼女達の、圧倒的なステージでの存在感とパフォーマンスに目が釘付けとなる。何よりも、「笑っているようで笑っていな」かった彼女達が、過去の嫌な思い出を忘れたような弾ける笑顔には感動する。AKB48が特に活躍し注目されたのは2010年~2017年頃。「人生そんなすてたものじゃないよね」と唄う「恋するフォーチュンクッキー」は2014年の楽曲だ。この時期は自民党が大差で民主党を衆院選で破り第二次安倍内閣が発足した年で、落ちぶれた日本が再生なるのではないか、と期待された時期でもある。そういえば、「モーニング娘。」を一躍スターダムに押し上げた「LOVEマシーン」には「日本の未来は、世界がうらやむ、恋をしようじゃないか」という歌詞の一節があった。この楽曲が流行した1999年はユーロが誕生し、NYダウ最高値を更新している一方、日本は経営危機に陥りかけた日産がルノーと提携せざるをえず、完全失業率が最悪値を更新、東海村の核燃料加工事故発生などと日本にとっては極めて暗い年であった。とても「世界がうらやむ」ような日本ではなかったからこそ、この歌詞が光る。そして「モーニング娘。」から10年経った「AKB48」のブームは、日本経済の大きなうねりそのものと重なる。「歌は世につれ、世は歌につれ」とは昔から使われる慣用句で、それは「アイドル」という音楽界ではやや軽く見られがちなジャンルでも当てはまる。音楽や映像、美術、工芸といった芸術は永遠の命を持つが、それは流行歌の世界でも変わらない。
  • それでいえば、三日間ぶっ続けで全21話を見た2003年のテレビドラマ「白い巨塔」のアーカイブもまた深く考えさせられるものだった。言うまでもなく社会派・山崎豊子が打ち立てた金字塔である社会派小説を原作とした映像作品だ。1966年の田宮二郎版、2019年の岡田准一版ともに大きな話題をさらったが、筆者にとってはやはり「フジテレビ45周年記念ドラマ」として制作された唐沢寿明・江口洋介版が圧巻だ。豪華な俳優陣とその演技の巧みさ、原作発表から40年経ったことを感じさせない設定の見事さ、そして根底に流れる医療、大学病院、死などのテーマは消えることない。これもまた永遠の命を持つ芸術だ。
  • ここでふと疑問に思うのは、自分が調査研究している流通業や小売業、消費産業は永遠の命を持ち得るのかということだ。「産業が芸術?」と訝しく思う向きもあるだろうが、より早く移動するために生み出された「自動車」が、その機能を超えてスタイリングや性能、そして保有するバックストーリーや時代背景から、芸術となっているのは明らかであり、それはフェラーリなどをデザイン・製造したピニンファリーナのようなカロッツェリアを出すまでもないだろう。
  • 日本の流通業で芸術、文化と言えば「西武セゾングループ」を忘れてはならない。複雑な家庭環境で生まれ育った堤清二氏は、主力業態「西武百貨店」で「脱百貨店」「七十貨店」を標榜し、商品の品数を誇るのではなく、提供するものに「文化」を練り込むことで、流通業の新潮流を創り上げた。生活雑貨店「ロフト」、最先端文化発信「パルコ」、リゾート/ホテル「西洋環境開発」といった芸術の香りする業態に加え、生活便利店「ファミリーマート」、クレジットカード決済「クレディセゾン」、外食「西洋フードシステムズ」など直截的に消費者利便性を追求することで消費文化を広げた。なかんずく、「ワケあって安い」を標榜したプライベートブランド自体をブランド化した「良品計画」はいまなお熱狂的な消費者の支持を受けている。また、雑誌「ビックリハウス」によるサブカルチャー、西武百貨店自体の宣伝コピー「おいしい生活」、パルコが行ったファッションや文化の定点観測「アクロス」、同じくパルコが運営したライブハウス「クラブクアトロ」、MV制作「ビデオアーツ・ジャパン」、番組制作「WAVE」、映画配給「シネセゾン」、日本衛星放送として生まれた「WOWOW」など、その広がりは書き切れない。結果的に、平成バブルの崩壊に伴って優良企業を売却し、その売却益で不採算事業の不良債権処理をせざるをえなくなり、グループ自体は散逸したが、1985年に設立された「西武セゾングループ」を超える「文化としての消費」を実現したところは今なお現れていない。
  • 念願だったデフレ社会が去り、インフレが到来したものの、所得がそれについていかず、日本流通業はいまなお「ディスカウント」「バリュー」の訴求から抜け出せないでいる。あえていえば、PPIH(ドン・キホーテ)が「面白消費」に対して真剣に取り組んでくれていることが光明か。「代官山蔦多書店」や「蔦屋家電」に代表されるCCCも、消費の文化化に真剣に取り組んではいるものの、企業としての収益・業績維持は容易ではないようだ。ただ、モデルチェンジを早めただけの「流行り物」が次々と出される現代で、「文化」という永遠の命を持つ消費財・消費は確実に必要とされているように思う。
  • 「AKB48 20周年スーパーヒットメドレー」は後半の紅組トップバッターらしい。ちょうど酒の酔いもまわったイイ頃だ。本年も大変お世話になりました。良いお年をお迎えください。

         (了)

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