- 先日、友人からちょっとした依頼があった。部下の教育研修のためにアイディアを出して欲しいという。男女雇用機会均等法」が就職の3年前に成立していたとは言え、女性がフルタイムの「総合職」として就職するのが難しかった時期からずっと働き、SE(システムエンジニア)歴38年の大ベテランだ。子育てや夫の転職や自身の病気などの困難を乗り越え、自力で取得した「キャリアコンサルタント」の資格を見込まれて、若手のサポートをしている。
- 彼女からの依頼は、「人と交換出来る『新ワード』を教えてください」、というものだ。ややもすると毎日の業務に追われがちな若手に、ちょっと違った視点を提供しようという意図がある。筆者が出した言葉はさておき、こんな言葉が出たそうだ。分かるだろうか?。1)ママ振り、2)あわやのりこ、3)YKなど。ネタバレをすると、1)は「成人式に親(=ママ)」の振り袖を着ること、2)ゴルフでグリーンにボールが乗りそうで乗らなかった時に発する言葉、3)予感、だ。2)は往年のブルースの「女王」淡谷のり子さんを連想するし、3)は「KY(=空気を読まない)」を間違い?などと勘違いしてしまった。


- さて、教育研修も第一ステージが終わったということで彼女からメールのお知らせを貰った際に、突然こんな質問が添えられていた。「先輩がPPIH(=ドン・キホーテ)のユニーとの統合作業が重要業務なんだけど、PPIHとユニーのPMIはどうなんでしょうか?。カンタンに教えてくれる?」。「新ワード」を出せと言う依頼はカンタンだが、PPIHとユニーのPMIとなると、そんな簡単な話ではない。そもそも、1)PPIHとはどういう経緯を経てこれだけの巨大企業になったか、2)一方でユニー(グループ)とはどんな存在で、3)なぜPPIHの傘下につくことになったのか、4)そして二社の相似点と違っている点は何か、を正確に掴んでいないと「カンタン」に両者のPMIは語れない。かといって聞かれたのはLINEでの軽いノリの質問だ。けっこう苦吟呻吟して、一時間ほどかけてLINEで書ける字数でなんとか合格点かという返事をしたのだが、返ってきたのは「PPIHの件、ありがとう!。まずは読んでこちらでも調べてみます」だった。ヲイヲイ、調べられるならば、まずは自分の手を動かせよ。ガックリ来た。そもそも、それなら、聞いてくんなよ~。気安い関係の彼女ではあるが、心の中で愚痴た。


- 生成AIが身近になったせいか、何でも「カンタン」に答えが得られるようになってきた。だから、人に対しても「カンタン」に尋ねる。それはコミュニケーションとしては悪くないけど、一抹の危うさを感じる事が増えた。
- 先日、Googleのお薦め記事をザッピングしていたら、@Delete_ALLさんの「Everything you’ve ever Dreamed」( https://delete-all.hatenablog.com/ )というブログが紹介されており、偶然拝読した。いや、もう笑った。業務時間中で隣では真剣な顔をして頭を抱えながら資料作りをして仲間がいるので、声を殺して、涙を流して笑った。そのタイトルは「圧倒的なコンサルの営業を受けました。」( https://delete-all.hatenablog.com/entry/2026/01/26/213000 )という、食品会社の営業部長である彼が、上司からの指示であるコンサルタントの提案を聞いてやった際のエピソードだ。しかし、この冷静な営業部長さんと、熱い(というか熱さしかない)若きコンサルタントの会話の頓珍漢さが最高に面白い。
- そのコンサルは30歳前後、20代後半かもしれないというので営業部長氏の20歳程度年若で経験も浅いと推定される。そのコンサル氏が営業部長氏に熱く語ったのが以下だ。
1)「事業拡大に苦労……中小企業ではよくある問題なので特に難しくありません!」
2)「(そのために)現在事業展開していないエリアで、これまでアプローチしていなかった対象にコンタクトしましょう」
3)「(全国展開は無理ではの営業部長氏に)固定概念を破壊しましょう!。私たちの若い発想力とイマジネーションをリソースにしたソリューションで解決します」
4)「(必要なのは)圧倒的なスピード感、劇的な変化、キャスティング・ボートを話さない政治力、革命的なソリューション、AIと人間の共鳴による未来創造、目標達成を続けることでしか得られない継続的達成感の獲得、驚異的な成長」
5)「私たちは『共創』を再定義した、友に奏でる『共奏』を掲げています」

- これを聞いた営業部長氏は、最初「頭痛が痛い的な日本語を聞いて、気持ちはアリューシャン列島あたりに飛び」、そして、最後まで聞いた彼は一言「きっつー」と思ったそうだ。それでも上席から「会うように」という指示があったため、知らん顔もできないので「数字を定量的に示してください」とお願いしたら、「圧倒的なので数字で表せません。数字で示したら、それを上限に成長が止まってしまいます。部長、可能性に限界の壁をつくるのはやめましょう。御社には無限大の可能性があります」とアツい返答があったそうだ。この営業部長氏の心中察するにあまりある。ご同情申し上げる次第だ。
- そう、このコンサル氏、言多くして何も言っていないに等しい。意地悪な例えだが、マルチ商法の勧誘マンとなんら変わらない。相手の気分だけをのせれば、何か仕事が貰えると考えている。なによりモヤモヤするのは、営業部長氏の仕事をなめており、たかだか食品会社の営業部長くらい「カンタン」に自分の魔法の言葉で「おとせる」と思っていることだ。いやいや、そうじゃないでしょ。そんなわけないでしょ。そもそも、そんな楽に事業拡大できるならば、誰でもやれますって。加えて、長年の経験と苦労があるであろう営業部長氏を口先三寸で納得させられると「カンタン」に考えていること自体が、あり得ない。底意地の悪い筆者ならば、こういう輩が来たら、テッテイ的に問い詰め、論理矛盾を詰め、泣かせて帰すところなんだが(はい、昭和のサラリーマンです)、それをするとカスタマーハラスメントとか言われちゃうのだろう。面倒くさい時代である。
- プロンプトをどう入力するかという「技術」が必要だった半年前とは違い、今の生成AIはベタ打ちで聞きたいことを、誤字脱字交じりで書いても見事に解読して回答してくれる。処理能力は100万文字というから、そりゃそうだろう。ただ、万能に思える生成AI、筆者の経験からするとこちらのレベル感をじっと測定して、それに合った答えしか返してこない。「ハルシネーション(嘘の答え)」が生成AIの弱点であるのは今も同じだが、キーとなるのは、その答えが「ハルシネーション」じゃないかと見抜き、「それは間違っているので調べ直してほしい。これはXXXであって、XXXではないと思う。だから、XXXとXXXという公開資料を調べ直して欲しい」と指示を出せる自分の能力だ。面白いもので、そこまで指摘すると、いともあっさり誤りを認めて、より正しい答えを出してくる。つまりは結局のところ、自分自身が「知っていること」が重要だ。AIは人を見るのである。


- 少し旧聞に属するが、今は「タイパ(=タイムパフォーマンス)」で「コスパ(=コストパフォーマンス)」で「スペパ(=スペースパフォーマンス)」の時代なんだそうだ。山梨中央銀行のウエブサイト「ふじのーと( https://www.yamanashibank.co.jp/fuji_note/ )」では、その次に来るのは、「メンパ(=メンタルパフォーマンス)」「シゲパ(=資源パフォーマンス)」「ムシパ(=無視パフォーマンス)」ではないかとのことだ( https://www.yamanashibank.co.jp/fuji_note/culture/post_4955.html )。いやはや。「XXハラ(=ハラスメント)」の次は「XXパ」ですか。オジサンはついていけんよ。

- 1960年頃だろうか、インスタントラーメンやインスタントコーヒーが普及した頃、「インスタント時代」という言葉が一斉を風靡した。筆者は1963年生まれだが、テレビや大人がこの言葉を使っているのをはっきり記憶しているので、相当長く使われたのだろう。ここでのインスタントはどちらかというと「早かろう、まずかろう」という意味で、どちらかというとネガティブなニュアンスがある。要は「カンタン、簡便にできたものは便利だけど、クオリティは知れているよね」ということだ。しかし、AI時代に入って、食品だけではなく知識や経験まで「インスタント」化していることを感じる。
- 物事は決して「カンタン」ではない。すべての事象には背景があり、バックグラウンドがあり、そこに関係した人達の想いがあり、悩みがある。それをなるべく多く知り、理解したうえでなければ、その上に新たな価値を築いて成果物としては提供できない。ましてや、それを伝えて「お代を頂戴する」ことはできない。難しい言葉を並べて、相手を煙にまけば、なんとかなる時代は終わった。だって、相手はそのプレゼンなりを全部生成AIに入れてチェックするだろうから。そして、AIが低いレベルの回答を返してきたらそのプレゼンは中身がなく薄っぺらと言う判断だし、そうでなければ聞くに値する内容ということになる。「カンタン」を疑う、これが情報洪水の中で身を守る一つの方法だろう。
(了)
