• 筆者と同じ流通・消費の調査研究をしている友人とランチをしていたら、「AI Rufus、どう思います?」と訊かれてアワアワした。お恥ずかしながら存知上げなかったから。「聞くは一時の恥,聞かぬは末代の恥」で伺ったところ、Amazonトップページの左側にある、比較的新しいメニューだそうだ。なんでも、「何か欲しいときにどんな物を選んだら良い時に迷ったら相談に乗ってくれる」らしい。「AIショッピングアシスタント(もしくはコンシェルジュ)」というそうだ。よく高い年会費のクレジットカードを持つと、旅行やレストランのお薦めを教えてくれ、時には予約をしてくれるアレの買い物版らしい。「コイツは試して見なければ」と早速、幾つか試して見た。使い方は簡単で、これをクリックすると左側に「アシスタント」が現れて、見本質問とともに「今日は何をお手伝いしますか?」と訊いてくる。おお、こりゃいい。
  • 丁度悩んでいた質問をいくつか投げて見る。1)携帯用のパソコンやスマホを充電するアダプターを推薦してください、2)社会人の息子が31歳の誕生日です。気の利いたプレゼントをおしえてください、3)最近、飲み過ぎると体がとてもダルいので、夜中の気分の悪さや二日酔いの効く薬やサプリメントを推薦してください。
  • 期待していなかったが、回答はなかなかだ。1)は「スマートフォンやパソコンの充電に最適な携帯用アダプターをご用途別にご紹介します。高出力モデルはノートPCとスマホを同時に急速充電したい場合に、軽量モデルは主にスマホやタブレットの充電用として最適です。すべて折りたたみ式プラグ搭載で、出張や旅行にも便利です。」というコメントとともに七つの推奨商品の写真が出る。2)は「31歳の社会人男性への誕生日プレゼントとして、品格のあるギフトをご提案いたします。より具体的なご提案のために、いくつかお聞かせください:[お仕事のスタイルはどのような感じですか?(オフィスワーク、営業、クリエイティブ系など)]、[どのような趣味や興味をお持ちですか?]、[ご予算はどのくらいをお考えでしょうか?]」ともう一度投げ返してくる。うん、確かに最初の質問だけでは回答を絞り込めないだろう。なによりナルホドと思ったのが3)の「申し訳ございませんが、こちらについて情報を提供することはできません。」という答えだ。実は3)は意地悪な質問で、薬剤師でも販売登録者でも医師でもないものが医薬品などを推奨することは薬事法や医師法に触れるからだ。よく考えられている。
  • こうした買い物の際に、助言をして手助けをしてくれるサービスは対面小売業の一つの重要な要素だ。多くの商品の中で自分の目的に合った商品を「推奨」できることは、顧客満足度を上げるだけではなく、その店での販売・売上高に繋がる可能性が高い。その究極が百貨店における外商・お帳場(三越の言葉だが)による様々な助言サービスだ。ただこれは一定金額以上の購買をしてくれる顧客向けのサービスであったため、例えば東急百貨店や西武百貨店などでは窓口で申しこんだり、その百貨店のハウスカードを保有していれば、ショッピングコンシェルジュサービスを受けることができた。
  • 買い物はレジャーであり、楽しみである一方で、似た機能やクオリティの「見極め」が難しい。それを解決することはAIショッピングアシスタントのような無料サービスだけでなく、有料サービスにも展開しうる。例えば、クレジットカードホルダーへの買い物相談は既に年会費にそのサービスがincludeされているし、具体的には顧客や親族への手土産であるとか、慣れない地域での会食会場の推奨、もっとエッジの効いたところではセカンドハンド店のハードオフやセカンドストリートなどで売っているオーディオや楽器などの推奨なども面白いだろう。というのも、年配者の「断捨離」の流れから当時は非常に高価だったり、今はワシントン条約の関係で輸入が禁止された木材を使ったギター(いわゆるヴィンテージ)などが、こうした中古ショップに相当安く買い取られているケースがあり、それを「宝探し」することがオジサンの趣味になりつつあるからだ。新品だけでなく、中古までカバー領域を広げるとその市場は極めて広い。
  • 消費者の見方であるAIショッピングアシスタントだが、一方でこの進化は流通業の構造を破壊する可能性も秘めている。「自分にとってどれを買えばいいのか」がわかり、メーカーの在庫有高と納期が検索できるならば、何も中間流通(卸)や小売店を通して購入する必要はない。現物が見たいときだけ小売店に行けば良いだけだ。実際、最近の家電量販店に行くと、さかんに商品展示サンプルの前でスマホをいじっている顧客を見る。その多くはAIショッピングアシスタントと通信をしているケースが多い。以前ならば、価格.comのような価格比較サイトで「底値」を確認したものだが、それすらもAIが行ってくれると、もはや小売店は単なるショールーミングの場でしかなくなりつつある。ただ、私的な印象ではこれは家電量販店側にも問題がある思われ、それは商品知識に問題のある店員が増えたためでもある。実際、先日、我が家や電子レンジと炊飯器の二台が一気に寿命が来て壊れたため、急遽、近くの家電量販店に行ったのだが、棚に並ぶ豊富な商品の群れの一方で、それぞれの特徴や価格差の理由、どれを推奨するかといったことを論理的に説明出来る店員は殆どいない。そうなると、「店にとって利益率を高いのを売ろうとしているのではないか」という不信感が生じ、なんと商品レビューのYouTube動画をその場で見たりする。
  • このように買い物すらも生成AIに依存する時代なのだが、既に株式市場などで起こっている「AIバブルの崩壊」にあるように「AI礼賛」の時期は過ぎ去っているようにも感じ始めている。詳細はまた別の機会に譲るが、これだけ性能と精度が上がり、有料プランも月額2,900円(Google AI Pro)だったものに月額36,400円(Google AI Ultra)という10倍以上のものが登場し始めている。さすがにこれだけ高額なプランを筆者は使えないが、生成AIの問題であるハルシネーションは果たして高額プランならば解決されるのかは不透明だ。メーカーからダイレクトに消費者に販売するような「中抜き」流通モデルで、途中でハルシネーションが起こった場合はかなり悲惨な混乱を生じることとなる。期待通りの機能を持った商品が届かず、返品や返金などの手間が生じる可能性もないとは言えないからだ。とはいえ、AIショッピングアシスタントが強力な武器であることは間違いない。子供の頃に見た近未来SF映画のように、希望をつぶやけば瞬く間にそれが手元に来るという時代は確実に近づいている。

(了)

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