- 4月に入り、前に勤務していた健康保険組合の「継続加入」の期限が切れてしまった。高いように思う健康保険料だが、サラリーマンは勤務先が半分負担してくれることに加え、人間ドック補助などの福利厚生サービスもあるため、お得だ。しかし筆者のような個人事業主は「国民健康保険」に加入して、家族分までまるまる自己負担せねばならない。また、1)平等割(一世帯ごとの負担)、2)均等割り(人数に応じた負担)、3)所得割(所得に応じた負担)の三つから計算するため、一般的に保険料が「高い」。実際、収入は前勤務先の給与所得があった時の半分以下だが、殆ど同じ保険料を払わねばならぬ。それでも怪我と病気はいつ襲ってくるかわからないから、加入しないわけにはいかない。
- そんなこともあり、医療について考える事が増えたのだが、どうも静かに医療サービスが改悪されているような気がする。まずお薬だ。医療機関で処方してくれる「医家向け薬品」が、ドラッグストアなどで自費購入する「OTCスイッチ」の方向に進みつつある。下図は2023年以降のスイッチOTCのリストだが、胃薬や花粉症薬、消炎鎮痛剤(痛み止め)などが認可されている。それだけでなく、花粉症薬や痛み止めなどで話題になったが、「病院では処方しないので、自己負担でお買いなさい」という「OTC類似薬の保険適用除外」が今年2026年度から行われる予定だった。反対の声が強く2026年度からと言うのは廃止になったが、2027年3月からは本格実施される予定であり、ロキソニン(消炎鎮痛剤)やアレグラ(花粉症薬)など77成分・約1,100品目がその対象となる模様だ。しかも通常の自己負担に加えて、薬剤費の25%が「特別料金」として上乗せされる。認可されたOTC医薬品は「セルフメディケーション税制対象薬品」として税額が低くなるが、トータル金額は医療機関で処方されるより遙かに高いのが現実だ。


- また1974年に、当時の社会問題であった「クスリ漬け医療」を回避するために始まった「医薬分業」は既に50年を超えた。しかし、それで医薬品にかかるコストが減少したかという成果については意見が分かれる。確かに2024年で医薬分業は「院外処方」の割合82%と増えた。ただ、これによる医薬品処方コストがどれだけ節約できたかという成果については、薬剤師会や厚生労働省の資料によれば、「単純なコスト削減82億円」「適正化された薬剤費570億円」「副作用回避まで含めると1,950億円経済メリット」と82~1,950億円と相当幅広い。一方、調剤薬局に支払われている「技術料」や「調剤報酬」が約2兆円あり、それらのメリットを遙かに打ち消しているという意見もある。しかも、この「調剤報酬」は色々な条件で変わるため一定ではない。つまり「一物一価」ではない。例えば、調剤薬局の窓口で「おからだ、お変わりないですか」「飲み忘れはありませんか」「体調どうですか」などと尋ねられることがあると思うが、あの何気ない一言も「服薬指導料」として料金がかかっている。こうしたことは「調剤報酬明細書」として患者に渡されているのだが、なにせ細かい内容なので殆どの人は精査しない。ちなみに筆者の親友は製薬会社勤務だが、彼はそうしたことには詳しいので(薬剤師)、明細書を必ずチェックするだけでなく、窓口で「説明とか一切いらないから、薬だけ出して」と言うそうだ。いわゆる「飲み合わせ」もネットやAIがある今、自分でチェックできるので「不要です」と断る猛者だ。


- さらに困るのが、その処方薬も最近は調剤薬局で在庫切れを起こしていることが増えた。要するに「薬不足」だが、その背景には二点の理由がある。まず第一に、多くの後発医薬品(ジェネリック)メーカーでの不適切製造や品質管理が発覚したことだ。今も厚生労働省の管理とチェックが入っており、多くの製造ラインが止まっている。また医薬品の原薬(成分)の6割程度は海外からの輸入品であるため、調達難も原因だ。第二にジェネリック医薬品が一般化する中で、「先発品」と呼ばれる、最初に開発された医薬品の生産量が減っている。ただ先発品と後発品(ジェネリック)の薬効成分は同じだが、「基剤」と呼ばれる割合の多い部分の物質が違う事で、効く・効かないという体感が患者によって違う。そのため、先発品を依頼する患者も多いが、先発品の生産量が減っているため、しばしば在庫切れの時があって難義する。


- 医療サービスの静かな悪化は、診療そのものにも影響が及んできそうだ。ストレスの多い中、メンタル不調を訴える患者が増えているが、2026年6月からの「診療報酬改定」では、このメンタル不調診療に関わる「通院精神療法」や「精神保健指定医による初診時の時間区分」などが見直され、患者の診察が難しくなるという見方がSNSを中心に話題を呼んでいる。メンタル不調を診察してくれる医師は「精神保健指定医」と呼ばれる専門医と、その専門医資格は保有していないが「診療内科」や「一般内科」の医師としてメンタル不調を診療する医師がいる。おおよそメンタル不調を診察する医師のうち8割を占める「精神保健指定医」にとって、今年の診療報酬改定は「短い再診を数多く回すのではなく、精神保健指定医による時間をかけた初診・評価を増やす」方向を優遇している。しかし、これは「精神保健指定医」の負担を増やすとともに、それ以外の医師にとっては報酬が減ることを意味する。その結果、専門性の高い「精神保健指定医」が減るのではないかという懸念が広がっている。


- さらに、郊外や地方などで、薬局が中心となって複数の医療機関を一箇所にまとめた「医療モール」を設置するケースが多かったが、2026年度の診療報酬改定でモール内に立地する調剤薬局への調剤報酬が大幅に引き下げられる。これは調剤薬局のビジネスメリットが減るため、医療モールの設置が減ることが懸念されている。

- 流通・小売の業界では、医薬品だけでなく化粧品や食品、家庭雑貨などの取扱いも増やすことで業界内シェアを高めているドラッグストア(特に調剤薬局併設)だが、その本業部分の医薬品販売では厳しい環境となる可能性が出てきた。社会保障費負担を下げるためにはやむを得ないところもあるのだが、医療サービスの質低下は国民にとって好ましいとは言えない。かといって「無い袖は振れぬ」。物価上昇、円安、原油高などで楽観してできない生活環境の中、市民にはもう一つ悩ましい事態が生じようとしていることは、さらに財布のヒモを固くすることにつながるのではないか…そんなことを国民健康保険料の決定通知が来るのを待つ筆者には切実な問題として懸念材料になっているところだ。
(了)