• 早くも2026年2月決算発表が最盛期を迎えた。まだ当面発表は続くのだが、現段階で印象深かったことを今日は二つ述べたい。一つは、1)「個食化」と「生活防衛」のせめぎ合い、2)M&A成長とオーガニック成長のせめぎ合い、だ。
  • 節約志向で消費不振が続いているようなメディア報道が多く、情報の受け手としては不安ばかりが増長される。しかし、実際の決算数値を見ると既存店増収率は+1%~+5%と幅があるが前年比プラスのところが殆どだ。興味深いのはその中身の分解だ。客単価はいずこも大きく伸びているが、客数は微増ながらも伸びているところと大きくマイナスとなっているところに二分化する。言葉を選ばずに言えば、「売り負けている」とことが出始めている。ということは「売り勝っている」ところがあるわけで、その多くは低価格施策を採っているところだ。
  • 客単価はさらに、「買上点数」と「(買上)一品単価」に分解できるが、これは「一品単価」が圧倒的に上昇している。ただ、この背景の解釈が企業によって異なっているところが興味深い。多くは「物価上昇に伴う商品単価の上昇で一品単価が上昇する分、買い求める商品点数が減少してしまった」と説明している。近年の物価上昇から考えれば納得のいくところだろう。ところがある老舗GMS・SMはこう説明した、「節約志向で顧客が大容量パックを好むため、そうした商品の陳列割合を増やしたため、一品単価が上昇し、一方で購買数量が減少している」と。これは極めて興味深い発言だ。
  • 2000年代以降、(1)単身者の増加で「個食化」が進んだ、(2)小売業はそれに対応するため「少量パック」の商品に注力してきた、(3)世帯あたりの人数減少で肉などの「大容量パック」は「食べきれない」と敬遠する傾向が強まった。しかし、上述のようにこの2025年度決算では「節約志向で顧客が大容量パックを好む」とある経営者は述べた。確かに最近話題を呼ぶトライアルやロピア、オーケーなどの小売業の特色が「大容量パック」だ。筆者が一緒に働く同僚は、「ロピアのパック大きくて、すごく割安なんです!」とウットリするような目で話したとき、ちょっと複雑な心境になった。なぜならば彼は独身だからである。訊けば、家庭用冷凍冷蔵庫の性能アップで、「大容量パック」で安く買い、小分けして冷凍・冷蔵保存すれば、なにも割高な「少量パック」を買う必要なんてないのだ、と。20年以上、食品小売業は来るべき高齢化社会や単身者増加社会に向けて「少量パック」の充実に力を入れてきたが、それよりも足下の「生活防衛」の方が重要になっている、そういう局面なのだろうか。説明を聞きながら、頭を抱えた。
  • 次に面白かったのが、別の老舗SM企業の好業績だ。機会がなく、しばらく決算説明会に伺っていなかったが、中期計画のペーパーを見て思わず目を見張った。2030年度の年商計画1兆円。ここは自社独自の業態をコツコツと開発し、年間出店数も数店舗にとどまる。世間で話題を呼び、注目される「統合再編を目指した大型M&A」で業界の注目を浴びたわけではない、いわゆる「オーガニック成長」企業だ。どちらかと言えば地味な印象すらある。
  • 世間の目は大型M&Aとそれによるシェア集中、再編統合に集まりつつある。先日の関東の老舗スーパー(スーパーセンター)のM&Aも大きな話題を呼んだ。ただ、一歩下がって冷静に考えると、M&AにおけるPMI、つまりシナジー創出のための各部門の調整や統一作業は極めて難しく時間がかかる。それぞれ全く違う取引先、品揃え、ファシリティ、オペレーション、人事制度で経営してきたものを「ガッチャンコ」するのだから、ハレーションも数多く起こる。それらを一個一個潰すのは骨の折れる作業だ。加えて、建設費や不動産費が大幅に上昇している中、統合した店舗の改装や建て替え、駐車場増設などの物理的な改造にはコストがこれまで以上にかかる。再編統合によるシナジー効果がいつ発現するかは、以前よりも予想しづらくなっている。それを考えれば、今一度「オーガニック成長」を見直す機運が出できてもおかしくない、そう感じた。
  • ただ、M&Aをすべて否定するつもりは毛頭無い。同業他社のM&Aを意味する「水平M&A」は上記のような懸念点もあるが、川上事業を買収しサプライチェーンを形成する「垂直M&A」に取り組んでいるところは、明らかにその効果が出てきた。共同仕入れ機構や自社のみで行うPB(プライベートブランド)では価格面でも品質面でも他社への差別化効果が薄まる中、「垂直統合」にはこれまでのグローサリー系のPB開発だけでなく、生鮮四品の差別化を打ち出すのに強い武器となっている。そしてさらにはもたらされる粗利益率貢献が大きい。その意味で「垂直統合M&A」は新たな主流となる可能性が高い。
  • 最後に一つだけ懸念を感じた説明会があった。そこの事業はフランチャイズで行われているのだが、様々な華やかな「打ち手」が発表される中で、筆者が気になっていたのは「フランチャイジーがきちんと儲かる体制を構築出来ているのか」であった。そのことを質問しようかどうかグズグズと迷っていたら、別の出席者が質問してくれた、「この二年間フランチャイジーの収益が低下しつづけているが、これを今年はどう建て直すかの考えを聞きたい」。おぉ、いいぞ!、いい質問だ。筆者の期待は高まった。しかし、その直後の経営陣の返答でその期待は一気に萎んだ。「どこまでフランチャイジーの収益を改善するかは、決めておりません」。耳を疑った。フランチャイズ事業において加盟店(フランチャイジー)がどれだけ収益を上げられるかは、フランチャイザーである企業の収益の原動力だ。それについて考えておらず、コミットメントもしないとは…。もちろんその企業がここ数年内的、外的要因から非常に苦しい経営選択肢を選ばざるを得なかったことは十二分に承知している。しかし、収益の根底であり、社会的なレゾンデートルでもある加盟店利益を後回しにすることには懸念しか残らない。決算発表はまだ続き、3月決算企業に徐々に移行し始めるが、これからも色々な注目天が出てくるだろう。目を離せないでいる。

 (了)

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