《 80年代のホンダの輝き 》
 私は1963年生まれで、若かりし頃から「クルマ」というものに特別な思い入れを持っている世代です。多分私よりも年上の方達はもっと思い入れがあるのではないでしょうか。早い人は18歳で自動車運転免許をとりますので、1980年代はまさしく日本自動車業界も花盛り、私を含めた友人知人もクルマに関しては花盛りの時であります。

 今でも覚えているのが、ホンダが二輪から四輪に完全に拡大をしてどんどん成長していた時代で、少し背の高い「シティ」という若者向けのクルマや、「デートカー」と名付けられた彼女を乗せてドライブにいくためのクルマの大人気車種「プレリュード」などがどんどんマーケットに出されていたことです。

 私が最初に親に借金をして買ったのは雪国であったためトヨタの4WDのステーションワゴンだったのですが(父の商売の手伝いをすることが条件だったので、ワゴンでなければダメでした)、大学の同級生が中古の白い「プレリュード」に乗って、彼女と明るい青春を送っているのを見て、悔しかったことを覚えています。二代目の「プレリュード」はヒップ(トランクルームの最後尾)がちょっと翼のように出っ張っていて、おまけに当時はやりのリトラクタブルライトで「社会人になったら、いつかこれを買ってやるんだ」と思ったことを覚えています。

 残念ながら、新入社員のお給料は財形の積み立てやら将来のための預金やらで非常に苦しく、「プレリュード」は変えなかったのですが、ホンダの四輪ビジネスの成功を確定させた「シビック」が3ドアハッチバックとして大変なヒットをしており、それを手に入れることができました。今思えばたかだか月7-8万円の手取りでどうやってクルマを維持していたのだろうと思うのですが、よほど欲しかったのでしょうね。幸いにして彼女がいなかったので(苦笑)、金曜日の夜に独身寮の近くの野天駐車場からクルマをそろそろと発信して、日曜日の夜まで二泊三日、日本全国を走り回っていました。ただ、ガソリン代がもったいないのでエアコンは基本的に使わず、高速道路は絶対に使わない(使えない)。ただひたすら、国道を走り続けて音楽を聴くという、身分相応の車生活でした。

 結婚したときに新居には駐車場の空きがなくて手放しましたが、転勤で引っ越した際にたまたま駐車場付の借家を借りることができたので買った車も新しい世代のシビック、その後子どもが生まれて、今となっては自動車メーカーのドル箱となった「ミニバン」の走りでもある「ステップワゴン」に乗り換えました。学生時代からのホンダへの憧れがあったのと、アナリストをしてから学んだホンダ神話が自分の中で増幅されていたように思います。

《 ホンダ魂の大好きな店長さん 》
 ただ、残念ながら1989年をピークにバブル経済には翳りが見え始め、1991年にはその崩壊が始まります。バブル経済の時には今なお世界で愛される日本製のスーパーカー「NSX」が生産されるのですが、その後、ミニバンの収益が大きくなったのとバブル経済崩壊で贅沢なクルマがうれなくなったため、ホンダの色が少しずつ変わっていきました。

 私も結果的には他のメーカーのクルマに乗り換えていったのですが、しかし、子どもが生まれて「ステップワゴン」に代えた時のディーラーのセールスマンが余りにもきくばり、説得力、ホスピタリティにあふれた人でいまだにおつきあいがあります。いつもいつもホンダじゃないクルマで登場するため、店長に昇格した彼にとってはありがた迷惑なところもあるのでしょうが、そこらへんはちょっと女子社員の方にお菓子のお土産などを買っていって、半年に一度くらい与太話をしてきます。

 年齢が同じであるというせいもあるのでしょうが、何よりも彼がクルマが好きで、なおかつ上記の能力にあふれた人であることから、私だけでなく他の彼の顧客もいまだに彼の元を訪れるそうです。ですから、妻用の軽自動車を買う必要が出たときは、ダイハツやスズキなど軽自動車にとても強いメーカーがあったのですが、迷わず彼からホンダの軽自動車を買いました。

《 三ヶ月点検での出来事 》
 とはいえ、彼のお店は私が前に住んでいた千葉県。で、今の私の家は東京の西部の方。行くだけで二時間はかかります。ですから、仕方なく三ヶ月点検は近くのホンダディーラーでやって貰うことにしました。知らなかったのですが、一ヶ月点検や三ヶ月点検は費用をメーカーが負担するので、どこのディーラーでも受けてくれるんだそうですね。

 で、今の家に近いホンダディーラーをインターネットで探してみたら、本当に近くにありまして、おまけにホームページには「車検のご相談」「点検のご相談」「新車のご相談」「中古車のご相談」「その他のご相談」と細かく相談できる窓口が設けられています。良い意味で非常に現代的なサービス体制で、これならば他で買った車だけど点検して貰えるかということも気軽にお願いできます。で、早速そこから点検のお願いをしたところ、非常に丁寧なご返信をいただき、「来店をお待ちしています」とのこと。日程を決める返信メールとともに、点検だけでは申し訳ないので、(本当は必要なかったのですが)オイルを有料で代えて欲しいともお願いしました。

 私としては新しく住み始めたところで、気持ちの良いディーラーを見つけたことでとても上機嫌になっていました。また、そのディーラーに対する期待値も大変高くなっていました。「もしかしたら、新しく出た新車の試乗もできるかな…」なんて。ところがその期待は見事に裏切られることになります。

《 裏切られた期待値 》
 約束した日は朝から雨でした。土曜日にお願いしたのでなるべく混み合わない朝一番でお願いしていたので、時間通りにクルマを持っていき、駐車場にいたスタッフに点検で来たむねを伝えると「そこらへんに置いておいてください」との返事。「そこらへん」というのがちょっと良い感じを受けなかったのですが、まぁ、他で買った車を点検して貰うという負い目もあったので、車検証などを持ってサービス(修理、点検)カウンターに。お店の中では厳しいディーラーの経営事情を打破するためなのか、とても割安な点検セットやオイル交換セットなどのキャンペーンが告示されています。

 で、フロントにいるスタッフに「10時からライフの点検をお願いしている佐々木ですが」と伝えると、返ってきたのが「何の点検ですか?」の返答。え?、だってメールでお待ちしていると担当者の名前まで書いてあったじゃないかと思ったのですが、そうか、この人は担当じゃないんだと思い、「××さんにお願いしたのですが」と伝えたところ、「××はお休みを頂いております。予約は….入っていたかなあ。」とのこと。

 ここまで聞いた段階で「新型車の試乗もできるかな」なんていう期待は一気に消し飛び、思ったのは「何だ、このディーラー?」という不信感。結果的にはサービスの人が出てきて点検しますということになり、オイルも変えましたし、待ち時間もコーヒーが出てきたんですが、引っ越してきたばかりの人間で捕まえておけば何かの時に見込み客になるのではないかというような行動は全くなし。点検、コーヒー、終了、はいお金、バイバイ、で見送りも何もありませんでした。

 軽自動車という利幅が薄い商品を、他で買って点検をしてくれというのは決して歓迎をされる客ではないことはわかっています。だから、下にも置かぬ扱いを受けたかったわけではない。でも、だからこそオイルも必要ないけど換えたわけだし、何よりもネットのホームページがあんなに充実していて、「予約を承りました。ご来店を心よりお待ちしています。」とメールをくれたあれは何だったんだと思わざるを得ません。このディーラーにはあれから足を踏み入れていません。

 その代わり、相変わらず千葉のディーラーにはいまだに足を運んでいます。あえば、エコカー減税の話や景況感の話から始まって、息子の話や妻の話などをして、小一時間。責任者として決済や仕事も目白押しだろうに、嫌な顔一つせずに彼はつきあってくれます。結局彼からつきあい始めて15年で買った車はステップワゴンと軽自動車の二台だけなのですが、ホンダで面白いクルマが出たら二時間かけて千葉にいって買うだろうなあと思っています。

《 デスティネーションストア・再び 》
 前にデスティネーションストアということを書きましたが、デスティネーションになりうるのは商品の魅力だけではなく、こうしたこともあるのだなあと身を持って知った次第です。

 私の家の近くのホンダディーラーはどうなるんでしょうか。気がかりなのはその目の前にあった日産自動車のディーラーがショールームを閉鎖してしまったことです。移転をしたのではなく、店舗を純減させたようです。幹線道路に面したとても良い立地だっただけに、このホンダディーラーと同じようなことをしていたのかなあとふと考えたりします。

 自分自身も気をつけないと、同じような不愉快なことをお客様にして、それでサイレンスマジョリティが徐々に離れかけているのではないかしらという不安を感じます。「なんや、おまえは調子こいているんじゃないか」と思った際は、是非、「アンタ、アカンで」と一言下さるようにお願い申し上げる次第です。

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