[ 「らしさ」いうこと ]
 金融業界による企業分析の最終着地点は数字です。貸付をしてきちんと元利を回収できるか、株式発行業務を請け負って出資者を募れるか、はたまた自分自身が直接投資を行って期待以上のリターンをあげられるか。そうしたことを数字で説明しなければならないため、業績予想の前提や中期経営計画の目標数値などに異常なほどの興味を示します。

 しかし私くらいのすれっからしになってくると、数字のバックグラウンドは必ずしも確からしいものがあるわけじゃないということも薄ボンヤリと気づいてきます。いわゆる企業文化とか、経営哲学とか、創業者の理念などと言うものがそれに当たります。事実、出閉店や事業拡大縮小といった重要な決断の際には、こうしたことが意外なほど決定のキーになることがままあります。いわゆる「××らしさ」という言葉はそれを示す端的なものでしょう。

 特に最近のように、経済環境が極めて不透明で、ややもすれば収益極大化のためには何でもやりたくなるような状況下では、「らしさ」と呼べる確固たる企業文化の背骨があることは非常に頼もしく、そして羨ましく見えます。毎日が日銭商売、自転車操業の証券業界に身を置く私としては特にそうです。

 しかしながら、その「らしさ」が本来の意味合いではなくてエクスキューズ(=言い訳)として使われているのではないだろうかということも感じることが増えました。

[ 「らしさ」の功罪 ]
 先日ある企業を訪問した時にある重役がこうおっしゃいました。「我が社は、人を大切にする、が社風だから、残業はさせないのだ」と。また別の企業の経営者の方は、「取引先とともに栄える、が社是だから、最近はやりのPBなんて大反対だ」とおっしゃいました。なるほど、いずれも立派な考えです。文句のつけようはない。ないけれども……正直なところ、私には違和感が残りました。

 確かに人を大事にするから残業をさせない、許可しないということは素晴らしい見識です。勇気のいる経営判断とも言えるでしょう。しかし今の時代、従業員に残業をしてもらわないで回していけるほど潤沢に従業員がいる企業というのは想像がつきにくい。とすると、残業をさせないといいながら、従業員は過度な負荷に困っているのかもしれません。万が一そうだとすると、立派な社風が企業の問題点を見えにくくする原因になってしまっている可能性が高そうです。

 PBについてのコメントはさらに問題が根深い。確かに開発輸入業者に丸投げ、もしくは適正利潤さえも取引先に認めない安売屋の「なんちゃってPB」は責められるべきです。けれども一方で、真剣に川上にさかのぼって、より高品質で安い商品を提供しようとしている企業もまた多く存在します。そして、こうした状況は既得権益者である川上産業にとっては好ましいものでありませんから、PBやPB開発に熱心な企業の悪口の一つや二つは言うかもしれません。しかしそれを真に受けて、PB開発は悪であるかのようなことを言うことが取引先を大事にすることだと言われても首をひねらざるを得ません。前々回のこのメールで書いたように、それは単に川上産業に「取り込まれている」だけなのではないかという気がします。

 ことほどさように、「らしさ」は重要です。しかし、それは金科玉条の様に神棚に奉って拝み、進化をしないための言い訳に使うためのものではありません。このあたりを注意して使わなければ、「らしさ」とはむしろ企業の進化を遅らせる諸刃の剣になり得ます。

[ 「らしさ」と「無意識の抵抗勢力」 ]
 最近、これに関連して強烈なインパクトを受けた言葉が「無意識の抵抗勢力」です。変化や進化をすることに賛同を示すけれども、いざ実行段階になるといつのまにかうやむやにフェードアウトしていってしまうことはしばしば経験します。それはこの「無意識の抵抗勢力」の存在のせいである可能性が高い、というお話しです。

 しかしこの抵抗勢力には悪意があるわけではありません。それどころか、固有の企業文化や創業者理念を守ろうとする善意から出ていることが多いのです。よって、その分、対処が極めて難しい存在と言えます。これを退治する方法は、(1)とにかく徹底的に企業文化を破壊・刷新するか、(2)各自がその抵抗勢力ではないのかということを自戒し続けることしかありません。いずれも言うは易く行うは難しです。

 企業のこれまでを形成してきたエッセンスである「らしさ」を、進化を続けるための「破壊」とどう折り合わせていくのか。それは果てしなく難しく、重要な課題です。しかし、難しいからといって見て見ぬ振りをすれば確実に企業生命を縮める危険な病でもあります。特効薬はなく、体質改善に努めるしかない。だからこそ、それを克服して、なおかつ「らしさ」を残しているいくつかの企業は限りなく魅力的に見えるのでしょう。

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