• 「良い睡眠ととるためには、寝床にスマホを持ち込まないこと、寝る一時間前にはディスプレイをみないこと」、健康関連の本にはみんなそう書いてある。でも、筆者は寝る前にiPhoneをつけて、「ヤフーニュース → 5ちゃんねるまとめ → X → YouTube」を見ないと気が治まらない。昼間、仕事をしている時に色々な情報に接しているようで、バタバタしているため、その日のホットなトピックスというのは意外と把握していないことが多いからだ。ただ、スマホというやつ乱したらキリが無い。実は、昨夜というか今朝もずっと見ていて、気づいたら朝の3時半だった。体に悪いなぁ。でも、やめられない。スマホは明らかに中毒性がある。
  • なかんずく時間を大量消費するのはYouTubeだ。最近のお好みは「まんまる。」という福井の中古車屋さんの社長と従業員のチャンネルなのだが、「61歳にもなって、そんなの見ているのか」と引かれてしまうので、これ以上は触れない。他にも「ヒカル」(姫路にしばしば帰っていた頃)や「警察官ゆりのアメリカ生活」(トランプ再選まではよく見ていた)、「高橋洋一チャンネル」(一次情報からモデルを作る高橋先生はやはり凄い)など、見るのは雑多なんだけど、昨夜見続けたのは、堀江貴文さんがメインに青汁王子と溝口勇児が脇を固めるビジネスオーディション番組「REAL VALUE」、あと、その前に一斉を風靡したビジネスオーディション番組「令和の虎」だ。特に後者は、筆者世代にとって地上波で2001~2004年に放映していた「¥マネーの虎」のYouTube版なので、結構見てしまうことが多い(主催者は残念なことにお亡くなりになったが)。まぁ、両方とも尺が長いのが難なのだけど。
  • で、「REAL VALUE」だ。メインチャンネルで600回近く放送実績のある「令和の虎」に比べるとまだまだ本数は少ないのだが、逆説的な意味で、これは「見るべきチャンネル」「動画」だと思う。というのは、なにせレベルが低い。嫌味ではない。だからこそ見る価値がある。この三人で堀江貴文さん以外はちょっと唸る低レベルだが、周りのひな壇に座っている「REAL VALUE マフィア」とかは、もっと唸ってしまう。「彼らはこのチャンネルが続いているうちに、事業失敗する可能性ありそうだなあ」と思えるレベルの方が多いのだ(失礼!)
  • で、さらに凄いのが番組構成と出演者だ。まず出演者は自分に自己評価で「企業価値」をつけるところから始まるが、それが中には300億円という数を堂々と言ったりするので驚く。で、このあと自己アピールのピッチをするのだけど、これも、色々な仕組みが用意されていて、それらの仕組みを使ってさらに自分のビジネスモデルについて質疑応答をし、そのうえで、最終的に会場のメンバーに幾らの「企業価値評価額」つけて貰うというエンタメだ。ただ、あまりにもダメダメなピッチだと「もうアキマヘン」という札が三人から出されると、無常にもそこで終了だ。
  • で、何故、流通閑話でこの番組のことを書くかと言えば、この「企業価値」だ。これが番組の回によっては「事業価値」になったりして、ややこしいこと夥しく、企業価値について日々考えている人間にとっては「違和感満載」の内容だ。なにせ、出演者が最初に言う「企業価値」自己評価の定量的論拠は何もない。たまに直近の売上高や利益などの事業規模の数字が出てくるが、「企業価値計算」において売上高や利益(しかも、どの段階の利益かわからない)では算定は不可能だし、どうやら、出演者の殆どは「バランスシート」や「キャッシュフロー」の存在と意味を理解していない。当然DCFもなければ、類似企業算定法もしらない。そう、彼らの「企業価値」とは「自分のやっているビジネスはこれくらいの価値はあるだろう」という妄想であって、「企業価値算定」をしたものではないのである。
  • その割に出演者はみな生意気で、メインの三人にいちゃもんをつけたり、彼らのビジネス実績を平気で馬鹿にする。一番凄かったのは#15で「芸能界から搾取をなくす」というテーマで出てきた出演者が堀江さんの逆鱗に触れる回だった。ただ、堀江さんが無茶な怒り方をしているかというと違う。その怒りの根拠は極めて明快だ。「『客を呼ぶ』という一番簡単なことが、おまえらはできていない」、「(評価者の事業を小馬鹿にする出演者に)お前は喧嘩の売り方を間違えている」。この二つともシビレる言葉だ。そう、「お客さんに来ていただく」ことがなければ何も始まらない。そのために、ビジネスをする人間はあれこれとアイディアを出し、クライアントの関心を引こうとする。後者は、堀江さんの過去を考えれば、とても重い言葉だ。
  • さらには、「お前は喧嘩の売り方を間違えている」だ。国家にとってマスメディアを管理下に置くことは、国家運営で最も重要事項のひとつであり、だからクーデターになるとクーデター軍はまず放送局を占拠しようとする。ただ、そういう優位な立場を武器に安易なビジネスモデル・番組作成に走り、マスメディアはネット社会へ移行する中で旧態以前の経営を変えられなかった。だからこそ、堀江さんは、ニッポン放送とフジテレビの資本のねじを利用して、フジテレビを手に入れ、ネット社会に適合した新ビジネスを行う事を考えた。その目的を達成するために、「誰に、いつ、どういう方法で、どういう論法で、喧嘩を売り、それをどういう形で収束するか」を寝ないで考えたであろう。ただ、国家の根幹の一つであるマスメディアという果実は彼が思うほど簡単に落ちてこなかった。いや、むしろ色々な理由で彼は投獄されることになり、もっとも人生でイキの良い時代を逃すことになる。その経験から出た言葉が「お前は喧嘩の売り方を間違えている」発言なのだが、出演者には全く理解できなかったのだろう。確かにこの番組に出てくる出演者は、このメイン三人のことであっても、過去に何をしてきて、どういう成功と挫折を繰り返し、今、何ををしようとしているかのバックヒストリーを理解している者はおおよそいない。この番組の最終クライアントはこの三人なのだから、彼らの興味を「呼ぶ」ことがファーストステップなのだが、若さなのか幼さなのか、クライアントを知る努力を怠っている。
  • この一連の動画を見て頭に浮かんだのが、最近筆者がよく使う「空中戦」と[地上戦]という例えだ。悲しいことに今もイスラエルとガザでの停戦交渉は上手く行かず、いまだに戦闘、殺戮が続いている。この紛争で使われているのはアイアンドームや、アイアンスティング、ドローンなどの最新兵器だが、しかし決着はいぜんとしてつかない。2023年10月にこの紛争が始まったのに、だ。2014年に始まったウクライナ紛争もまた同じである。その点で両方とも似ている状況にあるが、これには理由があると教えてくれたのは元・自衛隊の下士官であった友人だ。彼によると、戦闘には「空中戦」と「地上戦」があり、簡単に言えば、戦闘機やミサイル、ドローンなどの空から攻めるのが「空中戦」、敵地に上陸して領土を奪うのが「地上戦」であり、それが最終的な勝敗を決めると。数々の最新鋭の武器で「空中戦」は目立つ物の、結局これは相手の領土を占領できない。そこで海から、陸から相手陣地を攻める「地上戦」だが、相手方も黙って待っているわけではなく、領土を奪いに来る兵士を待ち構えて銃口の照準を合わせている。結果、領土を奪う側の兵士は狙撃され、爆撃され、膨大な犠牲がでる。これは第二次世界大戦の流れを根本的に変えたものとして有名な1944年のノルマンディー上陸作戦が有名であり、その凄惨さは「史上最大の作戦」や「プライベート・ライアン」、「D-デイ」など数々の映画で映像として描かれている。ちなみに米国ではNavyと呼ばれる「海軍」がその任を負うのではなく、Marineと呼ばれる「海兵隊」がその任を負う。
  • さて、YouTube「REAL BALUE」と「空中戦」「地上戦」だが、プレゼンターである出演者の殆どが語るのは「空中戦」、つまりは最終的に結果に着地しない「夢物語」だ(言いすぎかもしれないが)。一方で、それを聞いている側が求めている最終形は「地上戦」でどこまで領地(=収益結果)を得られるのかということだ。その齟齬がこの動画の面白さでもあり、歯がゆさでもある。そしてそれはしばしば実業の世界でも起こる。ビジネスのシードは「こうありたい」という夢だ。しかし、それを語ることは「空中戦」であり、楽しく、時には他者の心を動かすかもしれないが、現実の収益として成果に繋げるには、もっと泥臭い「地上戦」で戦わねばならない。「空中戦」は攻撃し放題だが、「地上戦」は相手からの銃撃や砲撃を受けて戦死することもあるし、重傷を負う。こうした「地上戦」を経験した兵士が、精神面でも大きなストレスを受け、それがPTSDとなることは今や常識だ。それでも「収益結果を出す」という目的の遂行には「地上戦」は避けられない。どんなに予想以上の被害を受けても、だ。だから、ビジネスをすること、特に起業や経営をすることは、毎日が「地上戦」の悲惨さを目にすることでもある。しかし、後退はあり得ない。その瞬間、「逃げる」と見た相手からの銃撃、砲撃は熾烈を極め、攻撃を仕掛けている時の10倍、100倍となって返ってくることもある。
  • こうした紛争、戦争で命を失い、また怪我を負い、心にも傷を負った人々にはこころから哀悼の意を表したい。そして、同時にビジネスでも大きな痛みを受けた人々もまた同じだ。筆者が成功をした/している企業よりも、失敗で痛みを受けた企業に強い関心を持つのはそこに背景があるのかもしれない。とすると、先ほどの堀江貴文さんが収録中だというのに、目の前の机を蹴り飛ばして怒る気持ちは理解できる。「REAL VALUE」と「令和の虎」、所詮はYouTubeの番組だよと言われればそうかもしれないが、しかしそれを超える意味はあるように思える。

                            (了)

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