• 米国中間選挙の結果がほぼ確定した。「やはり共和党は負けた」という思いと、「今後何がどうなるのか見通しがきかない」という思いで頭が混乱する。正直なところ、今後どうなるかは誰にも正確な予測はできない。今後、状況が変わることが覚悟のうえで「現状」をまとめておきたい。

[概観]

  • 中間選挙でトランプ氏自身が「落選」したわけではなく、大統領任期はあと2年ある。しかし共和党は上下両院で多数派を失った。物価・生活費への不満、関税による物価上昇、イラン戦争への反発、若年層やヒスパニック票の離反などが重なった。「民主党への全面的支持」というより「トランプ政治への強烈なNO」と見る方が自然だろう。
  • とはいえトランプ氏が無力になるわけでもない。民主党の法案には大統領拒否権があり、それを覆すには上下両院で3分の2が必要だ。拒否権乱発というより、予算や重要法案を巡って「何も決まらない政治」が増える可能性が高そうだ。

[世界情勢]

  • 問題は、内政で動きにくくなった大統領ほど、外交、軍事、関税、大統領令へ軸足を移す可能性があることだ。「民主党勝利=世界は平和になる」とは言えない。中長期では議会が対イラン戦争に歯止めを掛け、ウクライナ支援を強め、イスラエルへの支援にも条件を付ける可能性がある。ただ新議会発足は来年1月。それまではトランプ氏が外交・軍事で既成事実を作る余地も残る。
  • 象徴的なのが原油で、選挙直後に急落した。市場は「イラン戦争拡大の可能性低下→ホルムズ海峡の供給不安後退」と読んだらしい。これは日本にはプラスだ。ただ原油はその後反発しており、「トランプ敗北=原油安」と決めつけるのも早い。
  • ロシアにはウクライナ支援・制裁強化が逆風。中国には(民主党勝利による)高関税リスク低下はプラスだが、半導体・AIを巡る技術規制は続くだろう。民主党議会は同盟関係を支える防波堤にはなるが、トランプ氏がロシア、中国、北朝鮮との首脳外交を重視し、日本、韓国、台湾に負担増を求める懸念も残る。やはり方向性は読みにくい。

[米国経済・株]

  • 民主党の勝利は追加関税、減税、巨額財政支出に歯止めを掛け、財政赤字やインフレ圧力を弱めるという連想を生む。長期金利が下がれば株価にもプラスだ。ところが11/5の米国ナスダックは5.5%急落した。この乱高下は、選挙が「引き金」の一つで、本当の火薬はAI株の高い株価水準、巨額設備投資、借金によるデータセンター建設など、それ以前からの過熱にあったように思える。
  • 金利も単純ではない。民主党勝利は金利低下要因だが、11/6の米雇用統計が予想を上回り、追加利上げ観測は強まった。「政治は金利を下げるが、強い景気は上げる」という綱引きだ。AI株の一部が天井を付けた可能性はあるが、米国株全体の長期上昇相場が終わったと判断するのはまだ早い。

[日本経済・株]

  • 日本経済には、メディア報道はネガティブなものが多いが、むしろプラスかもしれない。追加関税リスクが弱まり、原油が下がれば輸入物価、電気代、物流費が低下する。小売、外食、食品、運輸など流通・消費産業への恩恵は大きい。ただ米金利上昇で円安が進めば、原油安の効果を相殺する。「原油」と「為替」のどちらが勝つかが重要になる。
  • 一方、日経平均は別だ。この一年の上昇を牽引したのは半導体製造装置、電線、電子部品などAi関連だった。米国でAI投資に疑問符が付けば、日本経済以上に日経平均が下がる可能性がある。逆に小売、不動産、サービスなど内需株は相対的に強くなる。「日本株安」というより「AI色の強い日経平均の反動」と見る余地がある。

[高市政権]

  • 高市政権への影響も小さくない。安倍政権以来の「首相とトランプ氏との個人的信頼関係」という外交資産は低下するだろう。今後はホワイトハウスだけでなく、民主党議会や2028年の大統領候補とも関係を作り直す必要がある。
  • 逆に、国内で成果を出しにくくなったトランプ氏が、日本の5,500億ドル対米投資、防衛費、米国製品購入などで「分かりやすい成果」を求める可能性もある。弱くなったトランプ氏が日本に優しくなる、とは限らない。

[AI]

  • 今回最も気になるのがAIである。ただ「AIバブルが崩壊した」は過剰反応だろう。メガIT起業のAIビジネスが急に消えるわけではない。正確に言えば、「AIなら何でも買う」「データセンターなら借金してでも造る」という金融相場には大きな亀裂が入ったということだろう。ただ、民主党勝利で、環境(大量の水利用)、電力料金、住民負担などから建設規制が強まりやすい。巨額の借金でデータセンターを増設してきた企業には厳しい。
  • 気になるのは2000年前後の「インターネット株バブルの崩壊」だ。インターネット自体は世界を変えたが、技術が正しいことと、その技術を理由に付いた株価や投資額が正しいことは別である。AIでも同じことが起きるとは言い切れないが、それへの不安は残るだろう。
  • つまり、「トランプ一強外交・一強相場」という前提が崩れ、リスクの種類が変わったのだろう。そしてAIも「AIが終わる」のではなく、「AIなら無制限に投資してよい」という考えに疑問符がつき始めた。
  • 冒頭述べたように、来週この文章を読み返し「うぅ~、書いていたことと全然違った」と筆者は頭を抱えているかもしれない。それも含め、2026年11月7日時点の定点観測として残しておくことをご容赦いただきたい。

(了)

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